ミカンなど柑橘類のポリフェノールが、緑茶カテキンの抗肥満作用を強める

 ミカンやオレンジなどの柑橘類に含まれるポリフェノールが、緑茶の抗肥満作用を強めることを、ヒトを対象とした試験で確かめたと、九州大学などが発表した。
 日本食が健康的な食事として人気が高い理由のひとつは、カテキンが豊富に含まれる緑茶を飲む食事スタイルであること。
 緑茶カテキンの肥満やメタボ、糖尿病の予防・改善効果が期待されている。食品の機能的な組み合わせにより、緑茶の健康効果をさらに高められる可能性がある。
緑茶の抗肥満作用を最大限にする方法を開発
 ミカンやオレンジなどの柑橘類に含まれるポリフェノールが、緑茶の抗肥満作用を強めることを、ヒトを対象とした試験で確かめたと、九州大学などが発表した。研究は、九州大学と北海道情報大学の研究グループが、トヨタ自動車と共同で行ったもの。

 日本は世界でも長寿国だが、それにはさまざまな食素材から構成される日本食が貢献していると考えられている。日本食の特徴のひとつとして、緑茶を飲むことがあげられる。

 緑茶には、ポリフェノールの一種であるカテキンが多く含まれる。そのカテキンのうちもっとも多いが「EGCG(エピガロカテキンガレート)」で、抗酸化作用が強く、肥満を抑制したり、がんを抑えたり、アレルギーを抑える、筋肉の萎縮を予防するなど、さまざまな生体調節機能があることが報告されている。

 しかし、緑茶の抗肥満作用を得るためには、緑茶カテキンを高濃度に含む緑茶を飲む必要がある。緑茶の生体調節機能を役立てるための、効果的な方法が期待されている。
食品の作用を高める「機能性フードペアリング」に着目
 一方、日本食に特徴的な食品成分や、個々の生体調節機能についての研究はこれまでも行われているが、さまざまな食品を組み合わせて摂取することで期待される生体調節機能についてはよく分かっていない。

 そこで研究グループは、生体調節作用のある食品成分と、その作用を高める食品成分とを組み合わせる「機能性フードペアリング」に着目した。

 ヒトの体には、体のなかに取り込まれた食品成分を感知(食品成分センシング)するしくみが備わっており、食品成分が生体調節機能を発現するうえで重要な役割を担っている。

 研究グループはこれまで、ミカンやオレンジなどの柑橘由来のポリフェノールが、緑茶カテキンの機能を向上させることを、細胞実験や動物実験で明らかにしていた。

 今回の研究では、緑茶と柑橘由来のポリフェノールを併用して摂取すると、健康機能にどのような影響が出てくるかを調べるため、ヒトを対象とした試験を実施した。

 その結果、緑茶と柑橘由来ポリフェノールを組み合わせて摂取することで、従来よりも少ない量の緑茶カテキンの摂取で抗肥満作用が期待できることが明らかになった。

緑茶と柑橘由来ポリフェノールを組み合わせて摂取すると、緑茶カテキンの抗肥満作用を得られ、従来よりも少ない量で作用を期待できることが明らかになった。
出典:九州大学大学院農学研究院、2021年
柑橘類のポリフェノールにより緑茶カテキンの抗肥満作用が増強
 緑茶の生体調節機能をになう成分である緑茶カテキンである「EGCG」は、細胞表面にある67kDaラミニン受容体(67LR)に感知されることで、さまざまな生体調節機能を発揮することが知られている。

 研究グループは、ビタミンAがEGCGセンサーである67LRの発現量を増加させることで、EGCGの生体調節機能を増強することを発見していた。さらに、柑橘由来のポリフェノールが、EGCGセンシングを増強することで、EGCGの生体調節作用(抗肥満作用、抗がん作用、抗アレルギー作用、筋萎縮予防作用)を向上させることを細胞実験や動物実験で明らかにしていた。

 また、疫学研究では緑茶と柑橘類を併用して摂取すると、がんの発症リスクが低下するが示されていたが、ヒト介入試験では確認されていなかった。

 そこで研究グループは、2020年6月~10月に、緑茶と柑橘由来ポリフェノールの併用摂取が健康機能に与える影響を調べるヒト介入試験を行った。30~75歳の健康な日本人男女60人を対象に、プラセボである麦茶、あるいは緑茶に糖転移ヘスペリジンを混合したお茶を12週間摂取してもらった。

 糖転移ヘスペリジンは、柑橘類に多く含まれるポリフェノールの一種であるヘスペリジンに糖を結合させ、水溶性を高めた物質で、健康維持に役立つ機能性素材として期待されている。

 その結果、糖転移ヘスペリジンを混ぜたお茶を飲んだ群は、麦茶を飲んだ群に比べて、体重と体格指数(BMI)の増加が抑えられていた。

 さらに50歳未満の人では、体重増加とBMI増加の抑制に加えて、内臓脂肪、体脂肪率、脂質異常症や動脈硬化の指標となる血中LDL/HDL比の増加も抑制されていた。

 これらのことから、緑茶に柑橘由来ポリフェノールを組み合わせて摂取することで、従来よりも少ない量の緑茶カテキンの摂取で、抗肥満作用を得られることが示された。

糖転移へスペリジンを含有する緑茶を12週間摂取すると、体重とBMIの増加が抑制された。
出典:九州大学大学院農学研究院、2021年
緑茶カテキンと柑橘由来ポリフェノールの機能性フードペアリング
 研究は、九州大学大学院農学研究院の立花宏文主幹教授と北海道情報大学の西平順学長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載された。

 「新型コロナの影響による肥満者の増加が懸念されており、抗肥満作用を訴求した食品の開発が期待されます。緑茶の摂取は、肥満予防の有効な手段のひとつとなりますが、カテキン類を高濃度に含む緑茶を摂取する必要がありました。今回の研究で、緑茶カテキンと柑橘由来ポリフェノールの機能性フードペアリングは、抗肥満作用以外の生体調節作用に対しても有効である可能性が示されました」と、研究グループは述べている。

 「緑茶カテキンと柑橘由来ポリフェノールのペアリングの効果は、緑茶カテキンの抗アレルギー作用や筋萎縮予防作用などにも発揮されることが動物試験で示されています」。

 「緑茶カテキンと柑橘由来ポリフェノールの機能性フードペアリングについて、今後のヒトでの実証研究が待たれます。健康・長寿大国の礎の一端を支える日本食に含まれる成分間の機能的な相互作用を解明していきたいと考えています」としている。

九州大学農学部 大学院生物資源環境科学府 大学院農学研究院
The combined effect of green tea and α-glucosyl hesperidin in preventing obesity: a randomized placebo-controlled clinical trial(Scientific Reports 2021年9月24日)