「禁煙」はたとえ体重が増えてもやった方が良い 体重増加が5kg以内ならセーフ

 禁煙後に体重が増えたとしても、その増加幅が5kg以内なら、喫煙を続けた人よりも心筋梗塞や脳卒中などのリスクが有意に低下することが、日本人約7万人を15年間追跡した大規模調査で明らかになった。
 なるべく若いうちに禁煙した方が、より大きなメリットを得られることも示された。国立がん研究センターなどが実施している「JPHC研究」の成果。
禁煙は心筋梗塞や脳卒中を予防するために必要
 「JPHC研究」は日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。

 禁煙が心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患を予防するために重要であることは、世界中の多くの研究で明らかになっている。

 一方で、禁煙によって体重が増えてしまうことが懸念されている。肥満や体重の増加は循環器疾患のリスク因子のひとつであり、せっかく禁煙してもその効果が相殺されてしまうおそれがある。

 しかし、禁煙後にどけだけ体重が増加するとそのメリットを弱められるのかは、よく分かっていなかった。

 そこで、国立がん研究センターや大阪大学などの研究グループは、1990年と1993年に、岩手、長野、茨城、高知、沖縄などの9保健所管内に居住していて、研究開始時と開始5年後の調査時にがんや循環器疾患の既往がなかった45~74歳の男女6万9,910人を対象に調査をした。
禁煙後に体重が増えても、禁煙のメリットは大きい
 研究開始時と5年後のアンケートの回答から、対象者を喫煙状況により、(1)研究開始時と5年後ともに喫煙している「喫煙者」、(2)過去に喫煙していたが研究開始時と5年後ともに喫煙していない「長期禁煙者」、(3)これまで喫煙したことがない「非喫煙者」、(4)研究開始時に喫煙していたが、5年後には禁煙していた「新規禁煙者」の4群に分類した。

 新規禁煙者については、さらに禁煙後の「体重増加なし」「0.1~5.0kg増加」「5.1kg以上増加」の3群に分類した。

 研究グループは、喫煙状況、体重増加、循環器疾患発症との関連を解析した。14.8年(中央値)の追跡期間中に、4,023人が循環器疾患(虚血性心疾患889人、脳卒中3,217人)を発症した。

 その結果、循環器疾患発症のハザード比(HR)は、「長期禁煙者」では0.56(95%信頼区間0.49~0.64)、「非喫煙者」では0.60(同0.55~0.66)となり、いずれもタバコを吸わない人は吸う人よりも循環器疾患のリスクが低かった。

 さらに、「新規禁煙者」でも、禁煙後に体重が増加していない群は0.66(同0.52~0.83)、体重増加幅が0.1~5.0kgの群は0.71(同0.55~0.90)となり、やはり禁煙によるベネフィトが大きいことが示された。

 一方、体重増加幅が5.1kg以上の群は0.70(同0.44~1.10)となり、喫煙者と差がなくなった。ただし、この条件の該当者数が少なかったため、統計学的有意差には至らなかった。

禁煙することで全循環器疾患、虚血性心疾患、脳卒中の発症リスクは低下する
体重増加が5kg以内なら禁煙によるベネフィトは勝っている
出典:国立がん研究センター、2021年
若い頃から禁煙をするとメリットはより大きい
 このほかに、60歳未満の新規禁煙者は、60歳以上の新規禁煙者よりも、循環器疾患のリスクがより低いことが分かった。60歳未満の若い頃から禁煙をするとより大きいメリットを得られることが分かった。

 今回の研究で、喫煙を続けた場合と比べて、禁煙することで、虚血性心疾患や脳卒中のリスクを低下できること、さらには全循環器疾患のリスクも低下できることが示された。

 これまでの研究でも、禁煙後の体重増加は、禁煙による循環器疾患のリスク低下の効果を弱めることとはないことや、年齢が若いと禁煙と循環器疾患のリスク低下により強い関連がみられるという報告がある。

 「禁煙者の循環器疾患の発症リスク低下に関するメカニズムとして、禁煙による、血管の内皮機能や血栓症、脂質異常症の改善などが考えられます」と、研究グループでは述べている。

 「喫煙を続けた場合に比べて禁煙することは、その後の循環器疾患の発症リスクを減らすことと関連していました。また、より若い時期で禁煙すると、より大きいリスク軽減効果を得られることが示されました」としている。

多目的コホート研究(JPHC Study) 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
Smoking cessation, weight gain and risk of cardiovascular disease(Heart 2021年6月)