女性が多量飲酒をすると乳がんリスクが1.7倍に上昇 日本人女性16万人対象の大規模調査
2021年03月11日
女性がアルコールを飲み過ぎる習慣を続けると、乳がんの発症リスクが1.7倍に上昇するという調査結果を、愛知県がんセンターがまとめた。
過度の飲酒ががんの発症リスクを高めることは知られているが、今回の研究は約16万人の日本人女性を対象に行ったはじめての大規模な調査研究であり注目される。
日本人女性の飲酒習慣と乳がんリスクの関係を明らかに
飲酒は乳がんリスクを上昇させることが確実であるとされている。しかし、日本人女性は欧米女性と比較すると飲酒習慣が少なく、またアルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドの代謝酵素の働きが弱い人が多いなど、欧米人とは異なる傾向がみられる。
そこで研究グループは、日本人女性の飲酒習慣と乳がんリスクの関係を明らかにするために、日本で実施された大規模な8件のコホート研究に参加した30~60代の健康な女性15万8,164人のデータをプール解析した。これほどの大規模な調査研究は日本ではじめてだ。
研究は、愛知県がんセンターがん予防研究分野(松尾恵太郎分野長)と国立がん研究センター(井上真奈美部長)などが共同で実施したもの。研究成果は、医学誌「International Journal of Cancer」に掲載された。
研究の対象となったのは、日本で行われた大規模コホート研究である多目的コホート研究(JPHC-I、JPHC-II)、JACC研究、大崎国保コホート研究、宮城県コホート研究、三府県宮城コホート研究、三府県愛知コホート研究、放影研寿命研究の計8コホート研究。
アルコールを飲み過ぎている女性は乳がんリスクが1.74倍に上昇
飲酒習慣を頻度と量に分けて検討し、頻度は「現在非飲酒」、「機会飲酒」(週1日以下)、「ときどき」(週1日以上4日以下)、「ほとんど毎日」(週5日以上)の4つのカテゴリーに、量は1日飲酒量で純アルコール換算で0g、0~11.5g、11.5~23g、23g以上の4つのカテゴリーにそれぞれ分類し比較した。
純アルコールにして20gは、ビールで約500mL、ワインで1/4本(180mL)、缶チューハイ1缶(500mL)、日本酒で約1合に相当する。
その結果、2,208人が乳がんを発症した。乳がんになったグループの喫煙率は60.6%、飲酒率は78.5%といずれも高かった。
調査時の閉経状態にもとづき分類した「閉経前乳がん」では、もっとも頻度の高い飲酒者のグループは非飲酒のグループに比べ、乳がんリスクは1.37倍に上昇した。
飲酒量をみると、純アルコール換算で23g以上飲んでいるグループは、まったく飲まないグループに比べ、乳がんリスクは1.74倍に上昇した。
さらに、飲酒の頻度、量ともに増加すればするほど乳がんリスクは高くなる傾向がみられた。一方で、閉経後の女性では飲酒頻度、飲酒量ともに乳がんリスクとの有意な関連はみられなかった。
出典:愛知県がんセンター、2021年
過剰なアルコールの摂取が女性ホルモン濃度を上昇
これの結果から、日本人でも欧米人と同様に、閉経前乳がんではアルコールが乳がんの罹患リスクを上昇させることが明らかとなった。
飲酒と乳がんリスクの関係についてのこれまでの研究で、過剰なアルコールの摂取が女性ホルモンであるエストロゲンの濃度を上昇させることが分かっている。過剰なエストロゲンは乳がんの発症に影響する。
また、アセトアルデヒド、過酸化脂質や活性酸素といったアルコール代謝物に発がん性があり、乳がんのリスクを上昇させる。
閉経後の女性で乳がんが少なかった理由としては、研究に参加した女性のうち、閉経後女性で飲酒習慣のある女性の割合が少なく、それにより飲酒の影響が小さく見積もられてしまった可能性や、日本人は肥満の割合が少なく、閉経後はエストロゲンの供給が主に脂肪細胞由来となるため、飲酒がエストロゲンを介して乳がん罹患に及ぼす影響が欧米女性よりも弱まる可能性などが考えられる。
国立がん研究センターの2017年の統計によると、乳がんは女性のがんではもっとも多く、年間に約9万1,600人の女性が発症している。
乳がんと診断されると、患者の進行度や悪性度などにより手術や薬物療法、放射線療法を組み合わせて治療が行わる。治療法は進歩しており10年生存率は86%と高い。それでも2019年には約1万4800人が死亡している。
研究グループは「乳がんを予防するためには若い頃から飲酒は控えめにすることが重要です」と強調している。
愛知県がんセンターがん予防研究分野国立がん研究センター
Alcohol consumption and breast cancer risk in Japan: a pooled analysis of eight population-based cohort studies(International Journal of Cancer 2021年1月26日)
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