「緑茶」に肥満・心臓病・脳卒中・認知症の予防効果 お茶を飲むシンプルな生活スタイル
2020年09月11日
日本の緑茶の健康効果は世界中から注目されている。緑茶に肥満や2型糖尿病、心疾患、脳卒中、がん、認知症などの予防・改善効果があることが、さまざまな研究で明らかにされている。
健康食として注目されている日本食は、緑茶をよく飲むことが特徴のひとつ。お茶を飲む生活スタイルはシンプルで安価に実行できる。
健康食として注目されている日本食は、緑茶をよく飲むことが特徴のひとつ。お茶を飲む生活スタイルはシンプルで安価に実行できる。
緑茶カテキンの抗酸化作用
緑茶や抹茶は日本をはじめ世界中で嗜好品として親しまれている。日本では古くは医薬品のように扱われていた歴史があり、抗肥満効果、美容効果やリラックス効果など、さまざまな作用があるとされている。
緑茶に肥満や2型糖尿病、心疾患、脳卒中、がん、認知症などの予防・改善効果があることが、世界のさまざまな研究で明らかにされている。
緑茶に含まれる栄養素のうち、数多くの生理作用が報告されているのが、渋味成分であるカテキン類だ。
緑茶葉にはカテキン類を含む茶ポリフェノールが乾燥重量で10~20%含まれているが、そのおよそ半数を占めるのが「エピガロカテキンガレート」(EGCG)。EGCGはウーロン茶や紅茶にはほとんど含まれていないので、緑茶を特徴付けている成分といえる。
緑茶に含まれるカテキンには抗酸化作用があり、とくにEGCGの抗酸化力は強力だ。カテキンを一定量、摂取し続けると、肝臓での脂質代謝が高まり、エネルギー消費が高まり、体脂肪が減少するという報告がある。
緑茶が心臓病や脳卒中などのリスクを低下
緑茶を毎日飲む人では、心臓病や脳卒中、呼吸器疾患などで死亡するリスクが低下する傾向があることが、国立がん研究センターなどが実施している多目的コホート研究「JPHC研究」で明らかになっている。
「JPHC研究」はさまざまな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。研究では、40〜69歳の男女約9万人を対象に1990年または1993年から2011年まで追跡調査した。
その結果、緑茶を1日1杯未満飲むグループと、1日3〜4杯摂取したグループと1日5杯以上摂取したグループを比べたところ、心疾患の死亡リスクは、それぞれ男性で26%、女性で26%低下した。脳血管疾患の死亡リスクは、男性で29%、14%低下した。
なぜ緑茶を摂取すると死亡リスクが低下するのか? 研究チームは、(1)緑茶に含まれるカテキンに血圧や体脂肪、脂質を調節し、血糖値を改善する効果がある、(2)緑茶に含まれるカフェインが血管内皮の修復を促し、血管を健康に保つ――可能性があると説明している。
緑茶が糖尿病リスクを低下
1日に緑茶を6杯以上飲む人は2型糖尿病の発症率が大幅に低下することが、文部科学省科学研究費による大規模コホート研究「JACC研究」でも明らかになっている。この研究は、日本人の生活習慣ががんなどとどう関連しているかを明らかにするために実施されている。
研究は、ベースライン時に糖尿病、心疾患、がんの既往歴のない40〜65歳の1万7,413人を対象に、緑茶など摂取状況と、糖尿病の診断有無に関して質問票の形式で調査したもの。
その結果、緑茶を1日6杯以上飲む人では、ほとんど飲まない人(週1杯以下)と比べ、糖尿病の発症率が33%少なかった。
緑茶に含まれるカフェインが基礎代謝の促進、筋肉における脂肪燃焼、グリコーゲンの異化、末梢組織からの遊離脂肪酸の放出を促している可能性があり、またEGCGなどのカテキンの抗酸化作用により、インスリン抵抗性の改善を期待できるという。
糖尿病リスクを減少 久山町研究でも明らかに
肥満やインスリン抵抗性のある人でより効果的
久山町研究の結果をふまえて行われた、テアニンを含む市販緑茶飲料の摂取による人の血清エチルアミン濃度に関する研究では、日常的な飲用が体内での一定量の残存に寄与することが示された。
テアニンは、摂取後約1時間をピークに速やかに代謝されて、グルタミン酸とエチルアミンに分解される。空腹時の採血では血清中のテアニンを検出できないが、エチルアミンは摂取後24時間以上血清中に残存する。そのため血清エチルアミンの濃度は、緑茶の摂取量を反映する客観的指標となる。
研究グループは、地域住民を対象とした前向き追跡研究の成績を用いて、血清エチルアミン濃度と2型糖尿病発症の関連を検討した。2007年の久山町生活習慣病健診を受診し、血清エチルアミン濃度を測定できた糖尿病ではない住民2,253人を7年間追跡して調査した。
その結果、血清エチルアミン濃度の上昇にともない、2型糖尿病の発症リスクは最大で31%低下した。さらに、肥満およびインスリン抵抗性を有する住民では、血清エチルアミン濃度と2型糖尿病発症の間により強い負の関係が認めされた。
緑茶にはテアニンに加え、カテキンやカフェインなどの成分も含まれる。緑茶のどの成分が糖尿病リスクを減少するのか、詳しくは分かっていない。「今後の研究で、健康飲料としての緑茶の効果を詳しく解明したい」と、研究グループは述べている。
お茶を飲む人は認知症のリスクも低い
緑茶やウーロン茶などを週に4回以上飲む習慣は、脳の健康にも良く、認知症の予防効果を期待できるという研究も発表されている。この研究は、シンガポール国立大学が、英国のエセックス大学やケンブリッジ大学と共同で行ったもの。
研究チームは2015~2018年に、36人の高齢者の脳を調べ、脳の各部の生理学的な活性を磁気共鳴画像(MRI)などの脳イメージングで解析。健康や生活習慣、心理的幸福に関する調査も行った。
その結果、緑茶やウーロン茶を週に4回以上飲む習慣のある人は、加齢にともない増える脳組織の障害から保護されている可能性があることが示された。
お茶を飲む習慣により、アルツハイマー病に関連する遺伝要因としてもっとも大きいとされる「ApoE E4」遺伝子が減るという。
お茶の茶葉には多くの生理活性物質が含まれており、これらが抗炎症作用や抗酸化作用を働き、血管損傷や神経変性から脳を保護している可能性があるという。
お茶を飲む生活スタイルはシンプルで安価
「道路交通にたとえて説明すると、脳の各領域が目的地で、脳領域をつなげる回路は道路です。道路システムがより良く組織されると、車と人の動きはより効率的になります。同様に、脳領域間の接続がより構造化されると、情報処理をより効率的に行えるようになります」と、シンガポール国立大学ヨンルーリン医学部のフェン レイ氏は言う。
「お茶を飲む習慣のある人は、飲まない人に比べ、認知機能が良い傾向があることは、過去の研究でも確かめられています。お茶を飲む習慣が、脳ネットワークの各領域の接続の切断を防げている可能性があります」としている。
緑茶やウーロン茶などは、日本を含むアジアではよく飲まれており、お茶を飲む生活スタイルはシンプルで安価に実現できる。
認知症を予防・治療する医薬品は確立しておらず、認知症の予防戦略は満足できる成果をもたらしていない。「お茶を毎日飲むという生活スタイルが効果的かもしれないという情報は勇気をもたらします」と、レイ氏は述べている。
Association of green tea consumption with mortality due to all causes and major causes of death in a Japanese population: the Japan Public Health Center-based Prospective Study (JPHC Study)(Annals of Epidemiology 2015年7月)The Relationship between Green Tea and Total Caffeine Intake and Risk for Self-Reported Type 2 Diabetes among Japanese Adults(Annals of Internal Medicine 2006年4月18日)
Serum Ethylamine Levels as an Indicator of l-Theanine Consumption and the Risk of Type 2 Diabetes in a General Japanese Population: The Hisayama Study(Diabetes Care 2019年5月10日)
Drinking tea may improve brain health(シンガポール国立大学 2019年9月12日)
Habitual tea drinking modulates brain efficiency: evidence from brain connectivity evaluation(Aging 2019年6月14日)
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