「自然音」と「花」にリラックスと癒しの効果が コロナ禍のストレス管理に有効

 小川のせせらぎの優しい音、木の葉が風にそよぐ音などの「自然な音」にリラックス効果があることが、脳科学の研究で分かった。
 花を観賞することが、脳の活動に影響を与え、心理的、生理的に生じたストレス反応を緩和させることも明らかになった。
自然音にはリラックス効果がある
 小川のせせらぎの優しい音、木の葉が風にそよぐ音、小鳥たちのさえずりなど、「自然な音」は、心と身体に物理的に働きかけ、自律神経系を安静モードにし、リラックスさせる効果があることが、最新の研究で明らかになった。

 自然の音や緑の豊かな環境が、リラクゼーションと健康を促進することが、科学的に確かめられた。研究は、英国のブライトン サセックス医科大学(BSMS)によるもの。

 研究チームは、音響・映像アーティストのマーク ウェア氏に協力してもらい、21~34歳の男女17人に、自然環境および人工環境で録音された音源を聞いてもらう実験を行った。参加者の脳の活動をMRIスキャナーで測定し、自律神経系の活動を心拍数でモニターした。

 その結果、安静状態の脳の複数の領域で活発になる「デフォルト モード ネットワーク(DMN)」の活動が、バックグラウンドで再生される音響によって変化することが示された。このネットワークは、脳内のさまざまな神経活動を同調させていると考えられている。
自然音が脳に優しく働きかける
 人工音を聴いているときは、不安症や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病などでみられるのと同様に、脳のシナプス伝達が内向きになり興奮が引き起こされるが、自然音を聴くと、身体の弛緩に関連する消化器系の活動は安静時に近いものになり、外部へ注意を向ける脳の活動が向上した。強いストレスを受けている人ほど、自然音によるストレス軽減の効果が高いことも分かった。

 「自然の豊かな環境を歩いていると、リラックス感を得られ、ストレスが軽減されることは、誰もが感じることです。今回の研究は、アーティストと科学者の協働で得られた成果で、自然音が心身に働きかけ、リラックス効果を得られやすくすることが分かりました。ストレスの多い現代社会で活用できるものです」と、同大学精神医学部のカサンドラ グールド ファン プラーク氏は言う。
花を見るだけでもストレスは軽減される
 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の研究では、花を観賞することが、脳の活動に影響を与え、心理的、生理的に生じたストレス反応を緩和させることが明らかになった。

 ストレスを与えた実験参加者に花の画像を見せると、ネガティブな情動が減少し、ストレスにより上昇した血圧やストレスホルモンの値が低下した。"花の癒し効果"が心理的、生理的、脳科学的に実証された。

 木々が育ち小川が流れるような自然環境では、ビルが建ち並ぶ都市環境に比べ、気分が向上し、ストレスが緩和されることが知られている。緑豊かな森林や樹木写真などにストレス軽減効果があることが、これまでの報告で明らかにされている。

 花は自然環境を構成する重要な要素の1つであり、お見舞いやプレゼントに多用されるなど、ヒトの心理に与える影響が大きい。今回の研究で、花の観賞によってストレス軽減効果を得られることが示された。
花を見ると情動を起こす脳の領域が落ち着く
出典:農業・食品産業技術総合研究機構、2020年
 最初に行ったのは、平均年齢24.4歳の男女35人を対象とした、花の鑑賞による血圧や情動への影響を調べる実験。参加者に不快な画像を見せて心的ストレスを負荷し、その後に花の画像を見せた。

 その結果、不快な画像によって生じたネガティブな情動(恐怖や嫌悪感)は、花の画像により減少しポジティブに転じた。さらに、上昇していた血圧は3.4%低下し、その低下幅は花以外の画像を見せた時に比べて有意に大きなものだった。

 次に行ったのは、平均年齢21.6歳の男女32人を対象とした、コルチゾール(ストレスホルモン)への影響を調べる実験。ストレスによって上昇するコルチゾールの値は、花の画像によって21%低下することが確認された。

 研究グループは、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて脳活動を詳しく調べた。海馬は記憶に、扁桃体は情動に、それぞれ重要な役割を果たす領域だ。その結果、花の画像を見ることで、扁桃体の活動が抑制されることが明らかになった。

 参加者は「花」という刺激に惹きつけられることで、ストレス源であった不快画像から注意が逸れ(ディストラクション効果)、その結果、ネガティブな情動を生起させていた扁桃体領域の活動が減少し、身体に生じていたストレス反応(血圧やホルモンの上昇)も緩和したと考えられる。

出典:農業・食品産業技術総合研究機構、2020年
花の"癒し効果"を科学的に解明
 これらの結果から、「花の画像」がストレス軽減に有効であることが明らかになった。本物の「生花」は毎日のように変化し、より人の目を惹くので、ストレス反応の低減の効果は画像よりもさらに大きいと考えられる。

 「今後は、生花の観賞が健康にどの程度寄与するのか、その効果を明らかにしていきたいと考えています。花には、さまざまな花型、花色があり、香りもあります。花の特徴が変われば、その花によって生じる脳活動も異なり、心理的・生理的効果も異なると予想されます。今後は、多様な花の効果について調べていくことも必要です」と、農研機構の望月寛子氏は述べている。

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Mind-wandering and alterations to default mode network connectivity when listening to naturalistic versus artificial sounds(Scientific Reports 2017年3月27日)
農業・食品産業技術総合研究機構
Viewing a flower image provides automatic recovery effects after psychological stress(Journal of Environmental Psychology 2020年8月)