「禁煙治療のための標準手順書」を改訂 加熱式タバコの拡大などを反映 4学会で対策

 日本循環器学会、日本肺癌学会、日本癌学会、日本呼吸器学会は4月に、禁煙指導を日常で効果的に推進するための指針である「禁煙治療のための標準手順書 第7版」を各学会のサイトで発表した。
 加熱式の電子タバコが急速に広まっており、またスマートフォンなどの通信機器を用いた禁煙治療に保険診療が認められたことなどを受け、6年ぶりに改訂した。
 ブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)の要件が2016年の診療報酬改定で変更されたのにも対応している。
スマートフォンなどを用いたオンライン診療も可能に
 手順書では喫煙について、「先進国において疾病や死亡の原因の中で防ぐことの出来る単一で最大のものであり、今日もっとも確実にかつ短期的に大量の重篤な疾病や死亡を劇的に減らすことのできる方法」として評価。

 「禁煙治療の有効性ならびに経済効率性については十分な科学的証拠があり、数ある保健医療サービスの中でも費用対効果にとくに優れていることが分かっています」としている。

 手順書の初版は3学会が、禁煙治療の保険適用が決定されニコチンパッチが薬価収載された2006年に策定した。その後、禁煙補助薬バレニクリンの承認やニコチンパッチの一般用医薬品(OTC)化などにともない改訂を重ね、2010年刊行の第4版から日本呼吸器学会が参画した。

 今回の改訂のポイントは次の4点――。

 1つ目は、2016年の診療報酬改定で変更されたブリンクマン指数にもとづく要件変更を反映したこと。ブリンクマン指数はそれまでに吸ったタバコの量を示すもので、1日の喫煙本数に喫煙年数を乗じて算出する。この指数が大きいほどがんの発病率が高いことが知られている。

 第7版では「35歳以上についてはブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上」とされた。高校生などの未成年者については、依存状態などを医学的に判断し、本人の禁煙の意志を確認するとともに家族と相談の上、算定するという厚生労働省の見解に準じる。

 2つ目は、ニコチン依存症管理料について、2回目から4回目にスマートフォンなどの機器を用いた評価が新設されたこと。対面診療と情報通信機器を用いたオンライン診療を組み合わせた診療を評価できるようになった。

 3つ目は、加熱式タバコの喫煙者を対象になったこと。加熱式タバコは急速に広まっているが、やはり体にとって有害であることが分かっている。全5回の治療のうち初診は対面で行い、再診1~3回目をオンライン診療で、再診4回目を対面で行うことが条件となる。

 加熱式タバコを喫煙する場合の喫煙本数の算定は、種々の形状があることから、以下のように行う。

  ・ タバコ葉を含むスティックを直接加熱するタイプ
    スティック1本を紙巻タバコ1本として換算

  ・タバコ葉の入ったカプセルやポッドに気体を通過させるタイプ
    1箱を紙巻タバコ20本として換算

例:21歳から30歳まで紙巻タバコ喫煙1日15本、31歳から35歳まで紙巻タバコ喫煙1日5本に加え加熱式タバコカプセルタイプ(1箱5カプセル入り)1日2カプセルの場合、
ブリンクマン指数の算定は、(15本×10年)+(5本×5年)+(20本×2/5箱×5年)=215となる。

 4つ目は、初回から5回目までの一連のニコチン依存症治療に係る評価が新設されたこと。2020年の診療報酬改定で、初回診察から最終回(5回目)までの一連のニコチン依存症治療に係る評価「ニコチン依存症管理料2」区分が新設された。この区分では5回分の禁煙治療の医療費を初回にまとめて算定できる。

 患者に医療費を前払いさせることで、最後まで禁煙治療を続けさせることを促させると期待される。治療を5回分受けた人は、途中でドロップアウトした人よりも禁煙成功率が高いという報告もある。

 2005年に始まった世界保健機構(WHO)の「たばこ規制枠組条約」のもとで、タバコの価格・税の引き上げや、改正健康増進法の施行による喫煙場所の制限など、タバコ規制が推進され、それにともない禁煙希望者が増加すると予想されている。

 4学会は、多くの臨床や保健指導の現場で手順書を活用し、効果的な禁煙治療が推進されることに期待を寄せている。

  1. ニコチン依存症管理料
   ニコチン依存症管理料1
  イ. 初回 230点
  ロ. 2回目、3回目及び4回目(2週目、4週目及び8週目)
    (1)対面で診察を行った場合 184点
    (2)情報通信機器を用いて診察を行った場合 155点
  ハ. 5回目(最終回)(12 週目) 180 点
   ニコチン依存症管理料2(一連につき) 800 点

禁煙治療のための標準手順書(第7版)の公開について(日本呼吸器学会)