「低炭水化物ダイエット」は肥満やメタボに良い? 悪い?
2020年04月07日
炭水化物を減らし脂肪やタンパク質を増やす「低炭水化物ダイエット」が、肥満のある人の体重減少や、糖尿病の人の血糖コントロールに効果的とした研究は多い。
一方で、「安易に飛びつくのは勧められない」としたコメントも発表されている。低炭水化物ダイエットの効果や安全性を検証した研究は増えている。
一方で、「安易に飛びつくのは勧められない」としたコメントも発表されている。低炭水化物ダイエットの効果や安全性を検証した研究は増えている。
低炭水化物ダイエットが糖尿病を改善
デンマークのコペンハーゲン大学とオーフス大学は、2型糖尿病の患者が低炭水化物ダイエットを行うと、血糖コントロールが改善するという研究を発表した。
デンマーク保健局によると、デンマークで2型糖尿病の新たに診断された人の85%は過体重や肥満であり、勧められるのは、体重減少に焦点を当てた食事法だという。
過体重や肥満の糖尿病患者が低炭水化物ダイエットを行うと、体重が減り、適正体重を維持するのに有利で、脂肪肝も改善し、結果として血糖コントロールの能力が向上するとしている。
6週間の低炭水化物ダイエットで効果
研究には、2型糖尿病患者28人が参加し、はじめの6週間は従来の食事、続く6週間は低炭水化物ダイエット(タンパク質と脂肪が多い)を摂ってもらった。
その結果、1~2ヵ月の血糖値の平均を反映するHbA1cは、従来の食事を続けた群では変わらなかったのが、低炭水化物ダイエットの群では0.6%低下し、空腹時血糖値や食後血糖値も改善した。
血糖値の変動に影響をもたらす炭水化物(糖質)を減らすことで、高血糖を抑制する方法は理にかなっている。インスリンを分泌するβ細胞の負担も軽くできると考えられている。
「糖尿病患者さんにどのような食事を推奨するかを解明するために、さらなる研究が必要ですが、今回の研究は低炭水化物ダイエットは有利だという結果になりました。今後、より大規模な長期試験を行うべきです」と、コペンハーゲンのビスペビアウ病院内分泌科のスーリー クァロップ氏は言う。
どんな食事法もやり方次第で健康にも不健康にもなる
一方で、低炭水化物ダイエットは、脂肪を抑えて摂取カロリーをコントロールする低脂肪ダイエットに比べ、決して有利ではないという研究も発表されている。
米国のハーバード公衆衛生大学院の研究によると、低炭水化物ダイエットと低脂肪ダイエットのどちらが有利であるかを決定付ける根拠はないという。
20歳以上の米国人3万7,233人を対象としたコホート研究は、低炭水化物ダイエットと低脂肪ダイエットは、どちらも総死亡率の変化には関連していないことが明らかになった。
むしろ、炭水化物・タンパク質・脂肪という三大栄養素をどんな食品からどれだけ摂るかという、食事全体の質に関わる因子の影響が大きかった。低炭水化物ダイエットと低脂肪ダイエットのどちらも、やり方によって結果はまったく違ってくるという。
健康的な低炭水化物ダイエットとは
研究では、「健康的な低炭水化物ダイエット」と「健康的な低脂肪ダイエット」は、どちらもより低い総死亡率と関連していることが示された。
「健康的な低炭水化物ダイエット」とは、食物繊維の多い全粒粉やシリアル、玄米など質の良い炭水化物、デンプン質の少ない野菜、大豆や豆類、ナッツ類などの植物性タンパク質を十分に摂り、動物性食品に含まれる不飽和脂肪酸を摂り過ぎないという食事法。
「健康的な低脂肪ダイエット」とは、飽和脂肪酸を控えめにして、植物性タンパク質を十分に摂り、品質の良い炭水化物を摂る食事法だ。
一方、「不健康な低炭水化物ダイエット」と「不健康な低脂肪ダイエット」を続けていると、一様に死亡リスクは上昇するという。
炭水化物と脂肪のどちらも質が大切
炭水化物は多過ぎても少な過ぎても良くない
米国のブリガム アンド ウィメンズ病院などが行った、コミュニティでのアテローム性動脈硬化のリスクを調査している「ARIC研究」に参加した1万5,400人以上の米国人を対象とした研究では、炭水化物の摂取量は多過ぎても少な過ぎても良くないことが示された。
食事全体のエネルギーに占める割合でみて、低炭水化物が40%未満である場合(極端な低炭水化物ダイエット)と、70%を超える場合(高炭水化物ダイエット)に、死亡リスクは上昇した。
低炭水化物ダイエットのなかでも、炭水化物の代わりに牛肉、羊肉、豚肉、チーズなどの食品から動物性のタンパク質や脂肪を多く摂る食事スタイルは、死亡率の上昇と関連していた。
一方で、野菜、大豆、マメ類、ナッツなどの植物性食品からタンパク質と脂肪を摂取する食事スタイルは、死亡率の低下につながることも示された。
死亡リスクがもっとも低かったてのは、食事で摂るエネルギー量の50~55%を炭水化物から摂っているグループだった。
動物性食品がベースの低炭水化物ダイエットは危険
炭水化物をタンパク質や脂肪に置き換える低炭水化物ダイエットが、肥満のある人が減量するために効果的な戦略となることを示した研究は多く、欧米ではすでに広く普及している。
しかし、今回の研究では、北米や欧州で流行している動物性食品がベースの低炭水化物ダイエットは、むしろライフスパンを短くするので、避けるべきであることが示された。
「代わりに、低炭水化物を植物ベースの脂肪やタンパク質に置き換えると、長期的に健康な老化を促進する可能性があります」と、ブリガム アンド ウィメンズ病院のサラ サイデルマン氏は言う。
「私たちは、食事でどのように炭水化物を摂るべきかについて、より注意深くなる必要があります」と、サイデルマン氏は指摘している。
医師や管理栄養士に相談を
このように、低炭水化物ダイエットの効果や安全性については、世界中で相反する結果が報告されており、今後も研究は増えていくとみられる。
「低炭水化物ダイエットは効果がある」とした研究も多いが、「安易に行うのは勧められない」とした研究もある。
低炭水化物ダイエットの長期の安全性は確かめられていないので、安易な理解で飛びつくことには危険がともなうことにも注意が必要だ。
欧州心臓学会(ESC)は2019年に、「低炭水化物ダイエットは、短期的には、体重を減らし、血圧を下げ、血糖コントロールを改善するために有用という研究が発表されていますが、長期的な安全性については確かめられていません。それどころか、心血管疾患、脳血管疾患、およびがんによる死亡リスクを上昇させるという報告もあります」という見解を示している。
食事療法の基本は、エネルギー摂取量を過不足なく調整し、タンパク質・脂質・炭水化物のエネルギー比率を適正にコントロールすることだ。また、血糖値を下げる薬を飲んでいる人は、薬によっては低炭水化物ダイエットが危険に作用する場合がある。
低炭水化物ダイエットを始めようと考えている人は、かかりつけの医師や管理栄養士に相談し、定期的な治療と検査を続けることが重要だ。
Reduction of carbohydrate intake improves type 2 diabetics' ability to regulate blood sugar(コペンハーゲン大学 2019年8月10日)A carbohydrate-reduced high-protein diet improves HbA1c and liver fat content in weight stable participants with type 2 diabetes: a randomised controlled trial(Diabetologia 2019年7月23日)
Examining low-carbohydrate, low-fat diets, risk of death(Jama Internal Medicine 2020年1月21日)
Healthy low-carbohydrate and low-fat diets may reduce risk of premature death(ハーバード公衆衛生大学院 2020年1月21日)
Association of Low-Carbohydrate and Low-Fat Diets With Mortality Among US Adults(Jama Internal Medicine 2020年1月21日)
Moderate carbohydrate intake may be best for health(Lancet 2018年8月16日)
Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis(Lancet Public Health 2018年9月1日)
Dietary carbohydrate restriction improves metabolic syndrome independent of weight loss(Journal of Clinical Investigation Insight 2019年6月20日)
Low carbohydrate diets are unsafe and should be avoided(欧州心臓学会 2018年8月28日)
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