日本の「緑茶」に糖尿病や肥満の予防・改善効果 世界中から注目

 日本の緑茶の健康効果は世界中から注目されている。緑茶や抹茶に肥満や2型糖尿病、心疾患、脳卒中、がんなどの予防・改善効果があることが、世界のさまざまな研究で明らかにされている。
緑茶のカテキンに抗酸化作用
 緑茶や抹茶は日本をはじめ世界中で嗜好品として親しまれている。日本では古くは医薬品のように扱われていた歴史があり、抗肥満効果、美容効果やリラックス効果など、さまざまな作用があるとされている。

 緑茶に肥満や2型糖尿病、心疾患、脳卒中、がんなどの予防・改善効果があることが、世界のさまざまな研究で明らかにされている。

 緑茶に含まれる栄養素のうち、数多くの生理作用が報告されているのが、渋味成分であるカテキン類だ。

 緑茶葉にはカテキン類を含む茶ポリフェノールが乾燥重量で10~20%含まれているが、そのおよそ半数を占めるのが「エピガロカテキンガレート」(EGCG)。EGCGはウーロン茶や紅茶にはほとんど含まれていないので、緑茶を特徴付けている成分といえる。

 緑茶に含まれるカテキンには抗酸化作用があり、とくにEGCGの抗酸化力は強力だ。カテキンを一定量、摂取し続けると、肝臓での脂質代謝が高まり、エネルギー消費が高まり、体脂肪が減少するという報告がある。
緑茶が心臓病や脳卒中などのリスクを低下
 緑茶を毎日飲む人では、心臓病や脳卒中、呼吸器疾患などで死亡するリスクが低下する傾向があることが、国立がん研究センターなどが実施している多目的コホート研究「JPHC研究」で明らかになっている。

 「JPHC研究」はさまざまな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。研究では、40〜69歳の男女約9万人を対象に1990年または1993年から2011年まで追跡調査した。

 その結果、緑茶を1日1杯未満飲むグループと、1日3〜4杯摂取したグループと1日5杯以上摂取したグループを比べたところ、心疾患の死亡リスクは、それぞれ男性で26%、女性で26%低下した。脳血管疾患の死亡リスクは、男性で29%、14%低下した。

 なぜ緑茶を摂取すると死亡リスクが低下するのか? 研究チームは、(1)緑茶に含まれるカテキンに血圧や体脂肪、脂質を調節し、血糖値を改善する効果がある、(2)緑茶に含まれるカフェインが血管内皮の修復を促し、血管を健康に保つ――可能性があると説明している。
緑茶が糖尿病リスクを低下
 1日に緑茶を6杯以上飲む人は2型糖尿病の発症率が大幅に低下することが、文部科学省科学研究費による大規模コホート研究「JACC研究」で明らかになっている。この研究は、日本人の生活習慣ががんなどとどう関連しているかを明らかにするために実施されている。

 研究では、ベースライン時に糖尿病、心疾患、がんの既往歴のない40〜65歳の1万7,413人を対象に、緑茶など摂取状況と、糖尿病の診断有無に関して質問票の形式で調査したもの。

 その結果、緑茶を1日6杯以上飲む人では、ほとんど飲まない人(週1杯以下)と比べ、糖尿病の発症率が33%少なかったことが明らかになった。

 緑茶に含まれるカフェインが基礎代謝の促進、筋肉における脂肪燃焼、グリコーゲンの異化、末梢組織からの遊離脂肪酸の放出を促しており、またEGCGなどのカテキンの抗酸化作用により、インスリン抵抗性の改善を期待できるという。
緑茶が善玉菌を増やし、肥満のリスクを下げる
 さらに、緑茶が腸内の善玉菌を増やし、肥満のリスクを下げるという研究を、オハイオ州立大学が発表した。それまで緑茶が腸内の炎症を防ぐことは分かっていたが、どのような作用で肥満防止につながるかは不明だった。

 研究グループはマウスを緑茶を与える群とそうでない群に分け、両方に高脂肪食を摂取8週間させた。その結果、緑茶を摂取したマウスは、そうでないマウスに比べ、体重が20%少なく、インスリン抵抗性も抑えられた。さらに緑茶を摂取したマウスは、脂肪組織や腸内の炎症が少なく、腸内の悪玉菌が減っていた。

 「緑茶が腸内細菌叢を健康にする効果は、人間にもあてはまると考えられます。ただし、緑茶のサプリメントでは効果は確認されていません。緑茶は1日を通じて食事で少しずつ摂取するのが良いでしょう」と、オハイオ州立大学人間栄養学部のリチャード ブルーノ教授は言う。

 ブルーノ教授らは現在、メタボリックシンドロームや2型糖尿病の人を対象に、緑茶の効果を調べる試験の準備を進めている。

 緑茶を飲む習慣はがん予防につながるという研究も発表されている。緑茶に含まれるEGCGが、健康な細胞を保護しながら、がん細胞を死滅させるサイクルを引き起こすことが、ペンシルベニア州立大学による研究で明らかになっている。
抹茶の抗不安効果
 抹茶に不安を軽減する効果があることを実験で明らかにしたと、熊本大学の研究グループが発表した。ドパミンとセロトニンの活性化を通じ、抹茶が抗不安効果を発現している可能性がある。ドパミンは神経を活性化し、セロトニンは気持ちを安定させてくれる働きのある脳内物質だ。

 研究グループは、暗くて狭い場所(Closed arm)と開放的な高所(Open arm)にマウスを置き、それぞれの滞在時間や移動距離を測定した。抹茶を熱水やエタノールで抽出したエキスを飲ませて行動を観察した。

 その結果、いずれも緑茶を摂取したマウスでOpen armでの滞在時間や移動距離が長くなった。このことは、抹茶の成分を摂取することでマウスの抗不安活性が高まったことを示している。

 抹茶および抹茶抽出物が不安を軽減させる効果には、「ドパミンD1受容体」と「セロトニン5-HT1A受容体」の働きが関与している。抹茶の摂取は、ドパミンとセロトニンの活性化を通じ、抗不安効果を発現していると考えられている。
日本のお茶を世界に伝承
 抹茶の葉の栽培で行われてる棚式覆下という方法は、新芽が伸び始める4〜5月にかけて25日以上の期間、茶園に遮光棚を設け、黒い寒冷紗で覆いをして栽培するというもの。独特の鮮緑色および芳香のある茶葉を栽培できる。

 旨味の成分はアミノ酸類で、なかでもグルタミン酸、テアニン、アルギニンなどのアミノ酸が、光を遮ることにより1.5倍以上に増加するという報告がある。抹茶にはカフェイン、カテキンなども含まれる。

 今後の研究で、抹茶の健康効果が解明されることが期待される。「日本人の日常生活に根付いている抹茶を世界に伝承することで、健康を増進する新しい生活スタイルを提案できる可能性がある」と、研究者は述べている。

Green tea cuts obesity, health risks in mice(オハイオ州立大学 2019年3月14日)
Effect of annatto-extracted tocotrienols and green tea polyphenols on glucose homeostasis and skeletal muscle metabolism in obese male mice(Journal of Nutritional Biochemistry 2019年5月)
The Relationship between Green Tea and Total Caffeine Intake and Risk for Self-Reported Type 2 Diabetes among Japanese Adults(Annals of Internal Medicine 2006年4月18日)
Green tea ingredient may target protein to kill oral cancer cells(ペンシルバニア州立大学 2019年7月8日)
Effect of annatto-extracted tocotrienols and green tea polyphenols on glucose homeostasis and skeletal muscle metabolism in obese male mice(Journal of Nutritional Biochemistry 2019年5月)