「やせればいい」わけではない 高齢者のフレイル対策も課題に
2018年09月10日
日本栄養士会(代表理事会長:中村丁次、会員数:約5万人)は7月28日~29日にパシフィコ横浜会議センターで「平成30年度全国栄養士大会」を開催した。
今年のテーマは「栄養障害の二重負荷解決を目指す」。日本栄養士会は8月4日を「栄養の日」、8月1~7日を「栄養週間」と定め、全国規模の活動を展開している。
今年のテーマは「栄養障害の二重負荷解決を目指す」。日本栄養士会は8月4日を「栄養の日」、8月1~7日を「栄養週間」と定め、全国規模の活動を展開している。
過剰栄養と低栄養が混在する日本
「栄養障害の二重負荷」とは、社会に過剰栄養と低栄養が混在している状態のことで、日本人の食・栄養の大きな課題になっている。
「日本は戦後間もない時期には低栄養を体験し、高度経済成長後は食の欧米化により過剰栄養を経験しました。現在は、この低栄養と過剰栄養が混在する第3の状況にあります」と、中村丁次会長は言う。
栄養問題は、時代や地域の集団特性により変わってくる。日本の戦後や発展途上国では低栄養が課題となり、先進国では過剰栄養による肥満や2型糖尿病などの生活習慣病が発生している。
現在の日本では、低栄養と過剰栄養が同集団内、あるいは一個人に同時に発生する「二重負荷」が新たな課題として浮かび上がっている。
個人に同時に発生する「二重負荷」は、年齢を重ねるごとに栄養の摂り方が変わってくるということ。働き盛りの年齢では、メタボリックシンドロームや肥満、2型糖尿病などに対策し、生活習慣病を予防することが、特定健診・保健指導などでも重視されている。
一方で、高齢者ではタンパク質を中心とした栄養の不足により、筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下する「フレイル」(虚弱)が問題になっている。
若い女性でも、やせは骨粗鬆症や卵巣機能の低下、低出生体重児を出産するリスクが高くなることが分かっている。
理想的な栄養摂取はライフステージによって変わる
過剰栄養とは、エネルギーや糖質などの過剰状態のことで、肥満や2型糖尿病などを引き起こす原因になる。
逆に低栄養とは、エネルギーやタンパク質の不足状態であり、虚弱による筋力の低下や、免疫力の低下などを引き起こす。
若い頃は「痩せなければならない」「腹八分目」と心掛けてきた人が、高齢者となったときにフレイル(虚弱)となり、要介護の発生率などが高くなるという問題が起こりうるという。
中村会長は、現代の日本では年齢や状況に応じた栄養指導が必要だと説いている。「腹八分目といったメタボ対策が有効なのは、20歳~50歳の働き盛りの世代で、65~80歳の高齢期になると効果は薄い。高齢期にはフレイル対策が必要で、タンパク質などの栄養をしっかりと摂るべきです」と、中村会長は指摘している。
関連情報
画一的な栄養指導だけでは不十分
同じ個人でも、時間の経過によって、過剰栄養と低栄養が混在する状況が発生している。画一的な栄養指導ではなく、ライフステージに合わせた栄養指導が必要だという。
「65歳以上にはフレイル対策に重点をおき、やせの場合にはエネルギーおよび良質なタンパク質摂取を増やし、筋力低下が見られる場合には運動を負荷することで、やせと筋力低下の予防をはかることが重要です」と、中村会長は言う。
日本や欧米でも、肥満や糖尿病は増えているが、新しいタイプの低栄養状態も起こっているという。日本では、若い女性、妊産婦、高齢者、傷病者の低栄養が発生しており、過剰栄養の問題と混在している。
「高齢者はしっかりと食べて、必要な栄養を摂取することが大切。健康な生活を維持し、元気なお年寄りをつくっていこうというのが、日本のこれからの課題です」と、中村会長は強調している。
メタボや2型糖尿病の人にも減量中のモニタリングを
前日本栄養士会会長の小松龍史氏は、2型糖尿病でBMI(体格指数)が33の肥満の患者の事例を紹介。この患者は、入院中は厳しいエネルギー制限を行ったため、骨格筋などの除脂肪組織も減少してしまった。
退院後はゆるやかな食事療法で体組成を確認しながらタンパク質量を考慮した栄養指導を行ったところ、4ヵ月間でさらに6㎏程度減量でき、この間は筋肉などの除脂肪組織を維持し、体脂肪量のみを順調に減らすことができたという。
「患者1人ひとりに合わせて、管理栄養士による十分な栄養学的配慮と行動科学的手法を用いた継続的できめ細かい栄養指導を行うことが必要」と、小松氏は指摘している。
「メタボや肥満、2型糖尿病の人にも、減量中のモニタリングを適切に行うこと。体重減少や血液検査値のみにとらわれず、体組成を確認し、特に除脂肪組織、筋肉量の減少を見過ごさないことが不可欠」と強調している。
体重減少による筋肉量の低下を防ぐ
「プレシジョン ニュートリション」を目指す
「フレイル対策には運動と栄養の両方が軸になりますが、タンパク質摂取量が少ないと、レジスタンス運動の効果を得られにくくなります。タンパク質の摂取は運動と関連づけて行われるべきです」として、実際に目指していくタンパク質摂取量は多くても体重当たり1.6g/kg/日を目安に挙げた。
「メタボ対策もフレイル対策も、『筋肉量の把握と維持』が統一されたメッセージ。いずれにおいても、タンパク質の摂取が重要であり、メタボ指導においては体重だけでなく体脂肪量のコントロールが重要」と、阿部氏は強調している。
「何歳からフレイル対策を始めたらいいかという問いには、個人差が大きくて明確には答えられません。個別化した栄養指導が必要です。管理栄養士・栄養士には、患者の個人レベルで最適な"プレシジョン ニュートリション"を目指してほしい」とまとめた。
公益社団法人 日本栄養士会栄養の日・栄養週間 2018 たのしく食べる、カラダよろこぶ(日本栄養士会)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。 ©2006-2024 soshinsha. 日本医療・健康情報研究所