講演会「内臓脂肪肥満の解消とスローカロリーライフ」レポート(2)

スローカロリーで肥満解消 糖質の吸収を遅らせて血糖値の上昇を抑える
 肥満を解消するために、食事で野菜を先に食べる「ベジファースト」が効果的だ。食生活にゆっくり消化吸収される糖質や、GI値の低い牛乳などの乳製品を積極的にとりいれることも勧められる。

 講演会「内臓脂肪肥満の解消とスローカロリーライフ」が、日本肥満症予防協会・スローカロリー研究会・Jミルクの共催で、『STOP!肥満症』推進月間にあたる10月に開催された。「肥満症」の予防・対策のための具体的な方法を専門家が伝授した。

ベジファーストにみる食事の質と糖質コントロール
西村一弘 先生(駒沢女子大学人間健康学部教授、東京栄養士会会長)

 糖尿病の人にとって、食事療法はもっとも基本的な治療法となる。食事療法がきちんとできていないと、運動療法や薬物療法だけでは、なかなか治療効果を得られない。食事療法は糖尿病患者に限って必要というわけではない。健康診断で血糖値が高めで糖尿病予備群と判定された人や、肥満の人でも、食事に注意することが必要だ。

 早い時期から食事に気を付けて、インスリンの効きを良くすることで、糖尿病の発症を予防したり、重症化を予防することができるようになる。血糖値は食事によって上昇するが、食事の量や種類、そして食べ方を変えることで血糖値の上がり方を抑えることができる。

 最近はテレビなどでも「ベジファースト」が注目されている。野菜から先に食べることで、食後の高血糖を防ぐことができる。まずは食物繊維が豊富で低カロリーの野菜を先に食べて、血糖値を上げやすい炭水化物を後に回すことが基本だ。

 2型糖尿病患者の多くは、血糖値を下げるホルモンであるインスリン分泌の立ち上がりが遅れる。健康な人では食事を食べ始めるとインスリンがすぐに分泌され、血糖を下げるが、2型糖尿病患者の場合はインスリンの立ち上がりが遅く、早い段階で炭水化物などを食べると、インスリンが間に合わずに高血糖の状態になってしまう。

 先に野菜を食べて、インスリンが分泌し始める食事の後半に少しずつ炭水化物などを食べることで、食後の高血糖を防ぐことができる。また、よく噛んでゆっくり食べることも、食後高血糖を防ぐために重要だ。

ゆっくり消化吸収される糖質が話題に
 1型糖尿病は、インスリンが膵臓から全く出ない、もしくはほとんど出ない状態になる病気だ。小児の1型糖尿病患者は、食事を摂るタイミングに合わせてインスリンを注射で補い、血糖値を正常値に保つ必要がある。一方で、子供の成長という面からみると、炭水化物、タンパク質、脂質をバランス良く摂って、健康的な体を作っていく必要があるので、糖質を制限することは勧められない。

 そこで西村一弘氏はゆっくり消化吸収される糖質である「パラチノース」に着目し、1型糖尿病の患者会などでも活用している。「パラチノース」は、カロリーは砂糖と同じ4kcal/gだが、小腸での分解速度が砂糖に比べて約5倍遅く、ゆっくり消化吸収されるため、砂糖と異なる生理学的な性質を示す。

 糖質は重要なエネルギー源だ。ゆっくり吸収される「パラチノース」には、血糖値の上昇抑制作用がある。「パラチノース」を病院給食や医療食に利用する例や、健康に与える影響について調べた研究も増えている。

 糖尿病やメタボリックシンドロームの人に、消化吸収の速度の遅い糖質は有用だ。特に成長期にある小児糖尿病患者にとっては、血糖値の上昇を緩やかにしながら、成長に必要なエネルギーを確保でき、血糖値の乱高下を起こさないというメリットがある。西村氏は小児1型糖尿病患者のサマーキャンプでも、この糖質を長年にわたって使用しているという。

 高齢の糖尿病患者では、低栄養や低血糖が原因で、サルコペニアや認知症のリスクが高まる。この原因を予防しながら、血糖値の急激な上昇を抑制する食事は、極めて有効だという。

「乳和食」で食塩を減らし、カルシウムを増やす
 牛乳は、筋肉を作り活発な内臓を保つために必要なタンパク質、骨や歯をつくるカルシウムやビタミンが豊富に含まれる食品だ。

 また、グリセミック指数(GI)は、ブドウ糖を摂取した後の血糖上昇率を100として、それを基準に、同量摂取したときの食品ごとの血糖上昇率をパーセントで表した数値。牛乳や乳製品は代表的な低GIの食品で、牛乳などを食事に組み合わせることで、血糖値の上昇を抑えられることが確かめられている。

 一方、日本の伝統的な食事である和食は、米飯を主食に、主菜や副菜に魚介類や野菜類を多く使い、脂肪分も少ないことから、健康的な食事とされているが、実は食塩の摂取量が増えてしまい、カルシウムも不足しがちになるという弱点がある。

 高血圧や骨粗しょう症などのリスクを下げるためには、減塩とカルシウム摂取が必要だ。そこで考案されたのが、和食の弱点を補いながら、おいしい減塩食を楽しめる「乳和食」だ。

 「乳和食」は、味噌や醤油などの伝統的調味料に、牛乳を組み合わせることで、「こく味」や「うま味」を引き出す調理法だ。利用されている食材本来の風味や特徴を損なわずに、塩分を減らし、和食を健康的に食べられるという。

栄養バランス食としての牛乳とカロリーコントロール
上西一弘 先生(女子栄養大学栄養生理学教室教授)

 牛乳や乳製品を摂り過ぎるとメタボリックシンドロームや肥満につながるという誤解が少なくない。しかし、実際は牛乳・乳製品をよく摂る人は、メタボリックシンドロームの割合が低いという研究報告を上西一弘氏が紹介した。

 研究では、20~60歳代の7,650人を対象に(解析対象者は8659人)、牛乳の摂取など日常の食生活、運動習慣、腹囲、血圧値、中性脂肪値、コレステロール値など健康診断の結果を調査した。

 牛乳・乳製品の摂取量により4つのグループに分け、摂取量のもっとも少ないグループ(男性0mg~100mg未満、女性0mg~100mg未満)を1とした場合の比率を解析した。

 その結果、「もっとも多く牛乳・乳製品を摂取する女性グループでは、もっとも飲まないグループと比べてメタボリックシンドロームの割合が40%少ない」、「もっとも多く牛乳・乳製品を摂取する男性グループでは、最も飲まないグループと比べてメタボリックシンドロームの割合が20%少ない」ことが明らかになつた。

 女性では、牛乳・乳製品の摂取が多いほど腹囲、体格指数(BMI)、中性脂肪、収縮期血圧が低く、善玉のHDLコレステロールは高かった。男性では、牛乳・乳製品の摂取が多いほど「血圧」が低かった。

 メタボリックシンドロームの男性を対象とした介入研究でも、牛乳や乳製品を摂取することで血圧低下の効果を得られることが明らかになっている。

 カルシウムや牛乳・乳製品摂取による抗肥満効果のメカニズムについて、多くの研究者が解明に取り組んでいる。カルシウムを摂取することで脂肪細胞での脂肪合成が抑えられ、脂肪が分解されやすくなることや、牛乳の蛋白質が分解される際に生成されるペプチドが血圧を低下させることなどが影響していることなどが考えられている。