内臓脂肪肥満を解消すれば健康寿命を伸ばせる 日本肥満症予防協会

 一般社団法人 日本肥満症予防協会は10月9日に日比谷コンベンション大ホール(東京)で、特別事業「内臓脂肪肥満を解消して健康寿命を伸ばそう」を開催した。

基調講演「内臓脂肪肥満解消と健康生活」
松澤佑次 氏(日本肥満症予防協会理事長、住友病院院長)
 松澤佑次氏は内臓脂肪を前提としたメタボリックシンドローム概念の基礎となる「内臓脂肪症候群」を提唱し、インスリン抵抗性や高血圧などに関連の深い「アディポネクチン」を発見した肥満研究の第一人者で、日本肥満学会理事長などを歴任した。

 日本肥満学会は肥満症について「過栄養や運動不足などにより、脂肪が過剰に蓄積した状態であり、肥満に起因する疾患を有しており、減量を必要とする病態」と定義している。

 具体的には、肥満(BMI 25以上)、あるいは内臓脂肪面積が100㎠以上の「内臓脂肪型肥満」があり、肥満に起因ないし関連する11疾患に及ぶ健康障害のいずれかがある場合に肥満症と判定される。

 肥満が引き起こす健康障害は、2型糖尿病や脂質異常症、高血圧、高尿酸血症などに加えて、冠動脈疾患、脳梗塞、脂肪肝、月経異常、睡眠時無呼吸症候群、変形性関節症、腎臓病などがある。体重を減らすことで肥満に伴う健康障害の多くを改善できることが明らかになっている。

 10月に名古屋で「第36回日本肥満学会」と「アジア・オセアニア肥満会議」が開催され、「名古屋宣言2015」が発表された。そこでは「肥満症とは、肥満に起因ないしは関連する健康障害を合併し、医学的に減量を必要とする病態をいい、疾患として取り扱う」とされた。

 宣言では「肥満の中から肥満症を取り出すことにより、健康障害を伴わない肥満と、健康障害を伴う肥満症とを区別する。健康障害を伴う肥満症は、減量によって合併している健康障害の改善が期待できることから、治療医学の適応となる。健康障害を伴わない肥満も、将来起こり得る様々な疾病のリスクファクターとなるため、予防医学の対象となる」として、肥満症への対策の必要について強調している。

肥満を改善することで多くの健康障害を取り除ける
 「肥満の人を放置せず、疾患が伴えば肥満症という病気として診断し、重症化する前に治療することの大切さを認識してもらいたい」と、松澤氏は言う。

 沖縄はかつては長寿県日本一を誇り、世界が賞賛したほどの健康長寿県だった。しかし、2000年に都道府県別平均寿命で沖縄県男性の平均寿命が26位に転落。同県の健康長寿の危機的状況は「沖縄クライシス」として、各方面で大きな衝撃が広がった。

 沖縄の肥満者の割合は全国に比べ男女とも全年齢で高い。車社会になり移動を車で済ませ運動不足が常態化していることや、食事の摂取エネルギーが増加し、特に脂質を摂り過ぎていることなどが要因だ。沖縄では現在県を上げて肥満対策に取り組んでいる。

 肥満は糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病の発症に大きく関与している。「日本ではBMI(体格指数)25以上が肥満とされ、BMI基準による高度肥満者が少ないにも関わらず、2型糖尿病などの発症は欧米に匹敵する」と、松澤氏は指摘する。

 松澤氏らが提唱した「メタボリックシンドローム」(内臓脂肪症候群)などの研究で、日本は今や世界をリードする成果を挙げている。その概念を柱にした厚生労働省の特定健診・保健指導は予防医学の実績を積み重ねている。

 肥満症の研究でもうひとつ注目されているのは、松澤氏ら大阪大学の研究グループが発見した「アディポネクチン」だ。アディポネクチンは内臓脂肪組織から分泌されるホルモンだ。

 アディポネクチンには、傷ついた血管壁を修復する働きをしていて動脈硬化を予防するほか、インスリンの働きを高める作用、血圧を低下させる作用などがある。内臓脂肪が増えると、アディポネクチンの分泌が減少し、動脈硬化を防ぐ働きが低下し、インスリン抵抗性の状態を引きおこし、血糖を上昇させる。

 アディポネクチンは肥満症の研究において、生活習慣病のカギになるバイオマーカーとして世界的に評価されている。「健診などでのアディポネクチンの測定を積極的に進めるとともに、アディポネクチンを増やす治療法の開発も肥満症対策として重要になっている」と、松澤氏は言う。

特別講演「食べ方と運動 治す・防ぐ・若返る健康生活」
中村丁次 氏(日本肥満症予防協会 理事、神奈川県立保健福祉大学 学長)
 肥満症は偏った食生活の積み重ねによって発症するといわれるくらい、食事との関係は密接です。また、食事はエネルギーをコントロールして、栄養のバランスを整えることが基本です」と、中村丁次氏は言う。

 肥満症の食事療法では、制限された摂取エネルギーの中で栄養素の必要量をとる目的で、「何を、どのくらい」食べるかが中心となってる。注意しなければならないのは、食事は多くの栄養成分の複合体である食品を組み合わせて調理し、加工していろいろな料理に仕上げて献立として供されていることだ。実際の食事では、食品の組み合わせにより栄養の成分の複合度は増し、体内での消化、吸収、代謝における成分の相乗作用は大きくなる。

 一方、炭水化物の摂取量を極端に減らす「糖質制限食(低炭水化物食)」は、短期的には減量や血糖コントロールの改善につながるとして、減量や生活習慣病の食事療法のひとつとして注目されている。しかし、効果や安全性については、あきらかになっていない点が多い。

 肥満症の食事療法のポイントは、(1)腹八分と運動により、適正体重を維持する、(2)食後血糖の調節は、炭水化物の量的、質的な問題と食品の組み合わせを考慮する、(3)三大栄養素の比率は、各栄養素の過不足状態が起きないように、個人がもつリスクの状態で決める、(4)ご飯に主菜と副菜と組み合わせる日本型食事は、栄養素をバランスよく摂取することができると同時に肥満の予防・改善にも有効である、(5)食事療法を継続させるためには、規則正しく、ゆっくり、おいしく食べること。

 肥満がある場合は、エネルギー制限によりまず減量をするが重要で、肥満の有無に関係なく、主たる制限を炭水化物にするか、脂肪にするかは、個人がもつリスクにより決定される。「全ての栄養素の必要量が確保され、過剰摂取状態にならないようにすることが重要です」と中村氏は指摘する。

「特定健診・特定保健指導」は世界に誇れるリスクマネジメント
 2008年に開始された「特定保健指導」では、生活習慣病の発症リスクが高い人に対して、医師や保健師や管理栄養士などが1人ひとりの身体状況に合わせた生活習慣を見直すためのサポートが行われている。特定保健指導には、リスクの程度に応じて「動機付け支援」と「積極的支援」がある。

 厚生労働省の作業部会は、「特定保健指導」による検査値への影響と医療費の適正化効果について経年的な分析を実施し、中間結果を公表した。

 それによると、特定保健指導を受けた人は、血糖や血圧、中性脂肪などの検査値の改善効果が3年間続いたことが判明した。積極的支援を受けた参加者は、2008年度と比べて2011年度では、男女ともに腹囲と体重がそれぞれ減少した。

 また調査では、メタボリックシンドロームの人が併発しやすい高血圧症と脂質異常症、糖尿病に関連する入院外医療費などの推移も、参加者と不参加者とで比較した。参加者の方が医療費が低く抑えられることが明らかになった。

 2009年の1人当たり入院外保険診療費は、積極的支援の参加者では不参加者に比べ、男性で5,340円、女性で7,550円少なかった。

 メタボリックシンドローム(内臓肥満)に焦点を当て、食事や運動の行動変容を促す「特定健診・特定保健指導」は、健康障害を予防し医療費を抑制する、世界に誇れるリスクマネジメントの手法だ。

 「介護や寝たきりではなく、人の手をかりずに自立して健康的に長生きできるよう健康寿命を延ばして行くことが高齢社会を支える大事なポイントです。そのためには健康的な食事をおいしく、楽しく続けることが大切です」と、中村氏は強調している。

「ウォーキングの効果と歩き方」
木谷道宣 氏(木谷ウオーキング研究所 所長)
 講演当日には、参加者が全員参加して「皇居一周健康ウォーキング」が開催された。

 ウォーキングは全身を使う有酸素運動だ。特別な道具もいらず基本的にはどこでも行えることから、多くの人々に親しまれている。ウォーキングには、「脂肪を燃焼させて体重を減らす」「下肢の筋力低下を防ぐ」「心肺機能を高める」「ストレスを解消する」「生活習慣病を予防する」「骨を強くする」などの、さまざまな効果がある。肥満症を改善・予防するために、特に勧められる運動のひとつだ。

 当日は木谷ウオーキング研究所の協力を得て、参加者の安全で効果的なウォーキングのやり方が指導された。

 ウォーキングの前にストレッチを行うと、関節をやわらかくするとともに、筋肉に刺激を与えて関節の動きをよくし、歩きやすくなる。また、腕の振りをよくし、呼吸をしやすくするストレッチも効果的だ。

 「最初から多くを気にし過ぎると継続しにくいので、まずは、視線をまっすぐにして遠くを見る、しっかりと腕を振るの2点だけを意識して歩きましょう」と木谷氏が指導し、健康ウォーキングが開始され、1人の脱落者もなく皇居を一周のウォーキングを実施した。

一般社団法人 日本肥満症予防協会