糖尿病の新しい薬物療法 HbA1cは低下したが肥満が増えている

第58回日本糖尿病学会年次学術集会
 糖尿病の薬物療法は進歩している。5月21日~24日に下関市で開催された「第58回日本糖尿病学会年次学術集会」では、糖尿病の薬物療法の最新の動向が発表された。
DPP-4阻害薬と多剤の併用が増えている
 糖尿病治療の目標は、良好な血糖コントロールを続けることで、糖尿病に関係する合併症の発症や悪化を防ぎ、健康な人と変わらない日常生活の質を保ち、寿命を確保することだ。最近の研究では、重い低血糖は心血管疾患を増やして病気の経過に影響することが分かっており、低血糖になることが少ない治療が求められている。

 2型糖尿病の経口血糖降下薬には、スルホニル尿素(SU)薬、ビグアナイド(BG)薬、DPP-4阻害薬、速効性インスリン分泌促進薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬、SGLT-2阻害薬の7種類がある。このうちSGLT-2阻害薬は、2014年から治療に使われるようになった比較的新しい薬剤だ。

 このうちSU薬は、β細胞に直接働きかけてインスリン分泌を促進し、基礎分泌と追加分泌の量を増加させることで血糖を下げる薬剤。インスリンの分泌する働きが弱まった場合に効果があるが、低血糖に対する注意が必要な薬剤だ。また、SU薬は単独で使用すると食後高血糖を改善する効果が弱い。SU薬は以前はもっとも良く使用されていた薬剤だが、後述するインクレチン関連薬の登場に合わせて単独処方は減ってきている。

 最初に経口血糖降下薬の単独投与で良いコントロールを得られた患者でも次第に血糖値は上昇し、併用療法やインスリンへの変更が必要となるケースが多い。作用機序の異なる血糖降下薬の併用によって、血糖改善効果を得られることが確認されている。

 併用療法の処方の傾向は大きく変化している。「糖尿病データマネジメント研究会」(JDDM)の調査によると、2型糖尿病患者の3分の2が経口薬を併用しており、DPP-4阻害薬と多剤を併用するケースが増えている。単剤治療でもDPP-4阻害薬の使用がもっとも多く、ビグアナイド薬が続く。

低血糖が起こりにくいインクレチン関連薬が急速に普及
 2009年に登場したインクレチン関連薬は、低血糖が起こりにくい、体重を増やさない、安定した血糖降下作用があるといった利点があり、急速に普及している。現在では、経口薬の選択の幅を拡げるのに貢献している。

 インクレチンは、食事を摂取したとき腸管から血液中に分泌される消化管ホルモンで、食後に高くなった血糖値をコントロールするために、膵臓β細胞からのインスリン分泌を増加させ、膵臓α細胞からのグルカゴン分泌を抑制する。その作用は、血糖値が上昇しているときにあらわれる血糖依存的なもので、食後高血糖を改善する効果がある。しかし、分泌後DPP-4と呼ばれる分解酵素により速やかに分解されてしまう。

 インクレチンが血糖依存的に血糖値をコントロールする作用に注目が集まっており、インクレチンを分解するDPP-4を阻害する「DPP-4阻害薬」や、構造を変化させ分解されないようにした「GLP-1受容体作動薬」が開発された。GLP-1受容体作動薬には、摂取した食物の胃からの排出を遅らせる作用や食欲を抑える作用などもあるとされる。既存のいずれの血糖降下薬の作用機序とも異なる新しいアプローチで2型糖尿病患者の高血糖を改善できると期待されている。

 これらのインクレチン関連薬は、単独で使用した場合は低血糖になる可能性は低いが、他の薬剤と併用すると、特にSU薬やインスリン製剤と併用すると低血糖になる可能性があるので、注意が必要だ。

 DPP-4阻害薬は、現在は1日1回または2回内服が一般的だが、効き目が安定して続くようにして週1回内服で済む薬剤が開発されている。また、GLP-1受容体作動薬は、現在は1日1回または2回投与が一般的だが、効き目が長く続くようにした週1回投与の製剤も使用されるようになっており、現在は月1回投与の薬の開発も進められている。

SGLT-2阻害薬は体重減少の効果を期待できる 安全性に注意喚起も
 「糖尿病データマネジメント研究会」の調査によると、糖尿病患者の全体の血糖コントロールは改善しており、HbA1cの平均値は低下している一方で、肥満が徐々に増えてきている。糖尿病の治療では、低血糖を起こさないことに加え、体重に対する配慮も重要となっている。

 血液中のブドウ糖(血糖)は通常は、全身で利用された後に腎臓から尿に排泄される(尿糖)。しかし、腎臓の尿細管にあるSGLT-2で再吸収され血液に戻る。2014年に治療に使われるようになった「SGLT-2阻害薬」は、尿糖の再吸収を抑え排泄を増やすことで、結果として血糖を下げる薬だ。

 「SGLT-2阻害薬」をは血糖値を下げるのに加え、体重を減らす作用があり、血圧低下や脂質改善の効果もあるとされている。インスリンに依存しない作用機序なので、単独で使っている場合には低血糖になる可能性も低い。また、他の薬剤との併用も可能だ。

 しかし、他の薬剤と併用している場合、特にSU薬やインスリン製剤と併用している場合は、低血糖を起こす可能性がある。実際にこれまでに、重症の低血糖や脱水、尿路感染症や皮疹などの副作用が報告されており、残念ながら死亡事例も報告されている。

 現時点では、脱水や脳梗塞、腎機能障害のリスクの高い高齢者には勧められず、糖尿病を発症してからあまり時間が経っていない、肥満のある患者に使う方が安全で効果があるのではないかと考えられている。また、体重減少の効果も食事のカロリー摂取が多いと相殺されてしまうので、食事療法を十分に守ることが必要となる。

 インスリン製剤は、効果の発現時間や持続時間によって、超速効型インスリンや持効型の基礎インスリン、これらの混合型など多くの種類があり、患者の状態に合わせて使われている。1日1回投与で効き目がより長く続くように改良された基礎インスリンも開発されている。

 混合型インスリンは、現在の治療に使われているのは懸濁液のみだが、近い将来に撹拌しなくても使用可能な混合型インスリンが使えるようになりそうだ。研究段階だが、吸入型インスリンや経口インスリンの開発も進められている。

第58回日本糖尿病学会年次学術集会