肥満は高齢に次ぐコロナウイルス重症化のリスクファクター

宮崎 滋
日本肥満症予防協会 副理事長
公益財団法人結核予防会 理事・総合健診推進センター 所長

 2020年5月、28歳の大相撲の力士がコロナウイルス感染による多臓器不全で亡くなりました。28歳の死亡は国内最年少とのことです。 165㎝、108.6㎏と力士としては小柄ですが、BMIは39.9で肥満学会の分類でいえば高度肥満です。また糖尿病を患っていたと報道されています。
 コロナウイルスに感染しやすく重症化しやすいのは、高齢者や、糖尿病、高血圧、心臓病などの基礎疾患のある人と言われていましたが、肥満もそれらに匹敵する危険因子であることが明らかになりました。

欧米、中国では肥満者が重症化

 BBC(2020年5月8日)は、イギリスのコロナウイルス感染症で入院治療を受けた約17,000 名の調査より、BMI30以上の肥満者は、BMI25未満の普通体重者に比べ重症化のリスクが33%高かったと伝えています。

  特に、ICUに入室した患者の内訳はBMI25~30の過体重者(日本では肥満に分類)が患者全体の34.5%、BMI30~35の肥満者が31.5%、BMI35以上の高度肥満者が7.0%であり 、全入室患者の73%を占めていました1。イギリスでは全人口に占める過体重者・肥満者の割合は64%なので、9%も高かったというものです。ちなみに、日本ではBMI25以上の肥満者は約25%に過ぎません。

 中国やアメリカからの報告でも、肥満者は重症化しやすく、死亡率も高いと報告されています。中国の深圳のコロナウイルス感染者の383例の検討では、非肥満者と比較し過体重者は86%、肥満者は142%も重症肺炎の罹患率が高かったと報告されています2

 アメリカ・シアトル地域で重症化した23 例中、普通体重者は3例に過ぎず、他の20名は肥満でした。その肥満者の85%が人工呼吸器を装着し、62%が死亡しました3

 アメリカのジョンホプキンス大学など複数の大学病院のICUに入院したコロナウイルス感染者265名(男性58%)の年齢とBMIの相関を見た所、若年層ほどBMIが高値であることが判明しました4。アメリカではBMI40以上の肥満者は、高齢の次に強い入院治療の予測因子とされています。

肥満が重症化の危険因子である理由

 まず、肥満者には、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を合併していることが多く、その結果腎障害や肝障害が起こりやすく、動脈硬化が進行しているため心筋梗塞や脳梗塞などを合併しやすいので、感染に弱いと言われています。

 次に、肥満者は腹腔内や皮下に大量の脂肪を蓄えているために、胸郭が膨らみにくく換気が不良であり、そのため肺機能が低下しやすく、酸素濃度も低下するためと考えられます。

 また、肥満者や糖尿病患者は、コロナウィルスに感染しやすい特徴的な問題もあります。コロナウィルスはアンジオテンシン変換酵素2(ACE 2)受容体を介して細胞内に侵入します。このACE2受容体は肺胞や肝臓、膵臓などに広く分布していますが、肥満者は普通体重者に比べ発現量が多いと報告されており、肺では肺炎を起こし、膵臓ではインスリン産生を妨げ高血糖を起こします。

 さらに、肥満者の脂肪組織には炎症を引き起こすマクロファージが侵入し、慢性炎症状態になっているため、感染すると過剰に反応しTNF-α、IL-6などのサイトカインを大量に放出する「サイトカインストーム」を起こし、一気に病状を重症化させると言われています。

肥満者は感染予防が必要

 したがって、肥満者はコロナウイルスに感染すると大変危険な状態に陥りやすいので、普通体重の人より感染予防により注意しなければなりません。「ステイホーム」と言われ、閉じこもりがちで運動不足になり、つい手近にあるものを食べて体重が増えたりすると感染の危険度が高まるので、体重を増やさないように毎日の生活に充分注意して過ごす必要があります。

日本で死亡率が低いのは肥満者が少ないため!

 ファイナンシャルタイムズは、「日本は世界で最も高齢化が進んでいるにも拘わらず、諸外国に比べ死亡率が比較的低い理由は、肥満者が少ないためではないか」とコメントしています。

 「肥満者が少ない理由は、特定健診・保健指導などの国を挙げての公衆衛生プログラムが機能し、肥満者の増加が抑制されているためではないか」と述べています。この点では、国民が行動変容に取り組んだほかにも、肥満学会や当協会が、肥満症やメタボリックシンドロームに関する啓発活動を行ってきたことも少なからず寄与しているのではないかと思われます。

 いずれにしても生活習慣改善による肥満、肥満症の予防が、重要であることを再認識させるものだと思われます。

引用文献

1. Docherty AB, et al: BMJ, DOI: 10.1101/2020.04.23.20076042
2. Qingxian C, et al: SSRN, 2020 DOI:10.2139/ssrn.3556658.
3. Kass DA, et al: Lancet, 2020, 395; 1544-1545. DOI: 10.1016/S0140-6736(20)31024-2
4. Petrilli CM, et al: BMJ, DOI:10.1101/2020.04.08.20057794

(2020年05月)