日本人の循環器病のリスク因子[高血圧・脂質異常・喫煙・糖尿病] 若いうちから予防が重要

 日本人では、高血圧、脂質異常、喫煙、糖尿病などのリスク因子を有していることが、将来的な循環器疾患の発症に大きく影響していることが、国立がん研究センターなどによる多目的コホート研究「JPHC研究」で明らかになった。

 45歳の人の循環器疾患発症の生涯リスクは、主要リスク因子が2つ以上ある場合は、男性では26.5%、女性では15.3%となった。

 リスク因子があった場合、生涯リスクで考えると、45歳の男性では4人に1人、女性では6人に1人が循環器疾患を発症すると推定されるとしている。

 動脈硬化性疾患についても、リスク因子が増えると、45歳男性でも10%という大きな生涯リスクになることなども分かった。

 高血圧、脂質異常、喫煙、糖尿病はいずれも動脈硬化と強い関連があることから、こうした結果につながったと考えられる。

日本人の冠動脈疾患・脳卒中・動脈硬化性疾患の生涯発症リスクを調査

 日本人では、高血圧、脂質異常、喫煙、糖尿病などのリスク因子を有していることが、将来的な循環器疾患の発症に大きく影響していることが、国立がん研究センターなどが推進している多目的コホート研究「JPHC研究」で明らかになった。

 研究グループは、1993年と1995年に秋田、岩手、長野、茨城、新潟、高知、長崎、沖縄の8保健所管内に在住しており、循環器疾患(脳卒中と心筋梗塞)の既往のない40~69歳の成人のうち、血圧、non-HDLコレステロール(non-HDL-C)、喫煙状況、血糖値を把握できた2万5,896人を対象に、それらの値をもとにグループ化し、45歳時点での循環器疾患発症の生涯リスクを推定した。

 今回の研究では、循環器疾患以外の原因での死亡という競合リスクを考慮して、生涯リスクを推定した。さらに、循環器疾患を冠動脈疾患、脳卒中、動脈硬化性疾患に分けた分析も実施した。

リスク因子が2つ以上あると45歳時点の循環器疾患発症の生涯リスクが高い

 その結果、リスク因子グループ別の45歳の調整済み循環器疾患発症の生涯リスクは、主要リスク因子が2つ以上ある場合は、男性では26.5%[95%CI 24.0~29.0%]、女性では15.3%[95%CI 13.1%~17.5%]となった。

 女性よりも男性の方で、循環器疾患の発症に対してリスク因子の影響が大きく、また男女ともリスク因子が減ると生涯リスクが低下した。

リスク因子グループ別にみた45歳の循環器疾患発症の生涯リスク

出典:国立がん研究センター、2024年

血圧、non-HDL-C、喫煙、糖尿病の4つのリスク因子で生涯リスクを推計

 生涯リスクは、ある年齢から生涯にわたり循環器疾患をどのくらいの確率で発症するかを示す指標で、ある年齢から積み上げられた発症数をもとに計算される累積罹患率であらわされる。

 研究グループは今回、各年齢層の代表値として45歳、55歳、65歳、75歳を開始年齢とし、85歳までの生涯リスクを推計した。たとえば、45歳のときでは、今後10年間で循環器疾患を起こす確率はあまり高くはないが、85歳までの生涯リスクで見積もると、リスク因子の状況が変わらなければ、生涯にわたり循環器疾患をどのくらいの確率で発症するのか見積もることが可能になる。

 まず、血圧、non-HDL-C、喫煙、糖尿病の4つのリスク因子の保有状況の組み合せにより、対象者を4つのリスク因子グループに分類した。追跡期間中に男性853人、女性835人が、循環器疾患を発症した。

危険因子境界域リスク因子主要リスク因子
血圧120~139/80~89mmHg140/90mmHg以上または服薬あり
non-HDL-C150~169mg/dL170mg/dL以上または服薬あり
喫煙喫煙あり
糖尿病糖尿病予備軍:空腹時血糖値100~125mg/dL(随時採血は140~199mg/dL)糖尿病:空腹時血糖値126mg/dL以上(随時採血は200mg/dL以上)または糖尿病治療中

(1) いずれも至適基準(境界域危険因子および主要リスク因子に該当する項目がない)
(2) いずれか1つ以上の境界域リスク因子を有する
(3) いずれか1つの主要リスク因子を有する
(4) 2つ以上の主要リスク因子を有する
に分類した(複数の番号に該当する場合はより大きい数字が優先)。

リスクが2つ以上ある場合の循環器疾患の生涯リスク 男性 26.5% 女性 15.3%

 さらに、リスク因子の保有状況別にみた各年齢での生涯リスクを、冠動脈疾患、脳卒中、動脈硬化性疾患、全循環器疾患に分けて検討した。動脈硬化性疾患は、冠動脈疾患と脳卒中のうちのアテローム血栓性脳梗塞と定義した。

 この結果から、全循環器疾患のうち、脳卒中による生涯リスクがもっとも高いことが特徴として示された。

 また、動脈硬化性疾患はすべて至適水準のグループでは、どの年齢でもほとんど生涯リスクは上がらかったが、リスク因子が増えると、45歳男性でも10%という大きな生涯リスクになることが分かった。

 高血圧、脂質異常、喫煙、糖尿病はいずれも動脈硬化と強い関連があることから、こうした結果につながったと考えられるとしている。

循環器疾患に対する生涯リスク
リスク因子が2つ以上ある場合の循環器疾患の生涯リスクは、男性では26.5%、女性では15.3%
動脈硬化性疾患についても、リスク因子が増えると、45歳男性でも10%という大きな生涯リスクに
男 性
※括弧内の数値は95%信頼区間を示す

女 性
※括弧内の数値は95%信頼区間を示す
出典:国立がん研究センター、2024年

若いうちからリスクを減らすことが循環器疾患の予防では重要

 「本研究では、高血圧、脂質異常、喫煙、糖尿病などのリスク因子を有していることが、将来的な循環器疾患の発症に大きく影響していることが明らかになった」と、研究グループでは述べている。

 リスク因子があった場合でも、若い人であれば10年間に循環器疾患を発症する絶対リスクはあまり高くなせにいが、生涯リスクで考えれば、45歳の男性では4人に1人が、女性では6人に1人が循環器疾患を発症すると推定されるとしている。

 「循環器疾患の予防のためには、生活習慣の改善にもとづくリスクコントロールがもっとも重要であり、本研究は性別にかかわらず、若いうちからリスクを減らすことのメリットを示している」としている。

 なお、今回の研究では、対象地域に都市部が含まれていないこと、および85歳を超える対象者数が少なく、生涯リスクと言えども85歳時までの評価であったことなどを限界点として挙げている。

多目的コホート研究(JPHC Study) 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ