トランス脂肪酸の上昇が認知症リスクを高める 日本人1,600人を10年間調査 久山町研究

 トランス脂肪酸を食事で摂り過ぎると、認知症リスクが上昇する可能性があることが、九州大学による「久山町研究」で明らかになった。血清のトランス脂肪酸濃度が上昇すると、認知症リスクは最大で1.6倍に上昇する。
トランス脂肪酸を減らす取り組みが進んでいる
 九州大学は、「久山町研究」の追跡調査のデータを用いて、血清中のトランス脂肪酸(エライジン酸)濃度の上昇が認知症発症と関連することを突き止めた。

 トランス脂肪酸は、油脂類に含まれる脂肪酸で水素が二重結合をはさんで反対側についているもの(トランス型)をいう。普通の植物油の多くで、二重結合はシス型と呼ばれるかたちをしている。

 水素添加によって製造されたマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングや、それらを原材料に使ったパン、ケーキ、ドーナッツなどの洋菓子、揚げ物などにトランス脂肪酸が含まれている。

 トランス脂肪酸は、LDL(悪玉)コレステロールを増やし、HDH(善玉)コレステロールを減らし、動脈硬化を促す。加工食品に多く含まれるトランス脂肪酸を過剰摂取すると、心疾患の発症リスクが高まることが知られている。

 トランス脂肪酸をめぐっては、世界保健機関(WHO)が2003年に、1日当りのトランス脂肪酸の平均摂取量を、最大でもエネルギー摂取量の1%未満に抑えるよう勧告した。食品業界が自主的に減らす取り組みも進んでいる。
日本人の健康診断データを集積「久山町研究」
 トランス脂肪酸と認知症発症の関係については十分に解明されていない。その原因として、食事調査ではトランス脂肪酸を定量的に調べることが難しいことが挙げられる。

 そこで研究グループは、認知症のない久山町高齢住民約1,600人を10年間前向きに追跡し、代表的なトランス脂肪酸(エライジン酸)の血清濃度と認知症発症の関係を調べた。

 「久山町研究」は、福岡県久山町と九州大学の共同研究として、久山町の住民を対象に、1961年から行われている疫学調査。40歳以上の全住民を対象にした健康診断結果のデータを蓄積しており、健診受診率や剖検率、追跡率が高く、日本を代表する精度の高い研究として注目されている。

 研究は、九州大学大学院医学研究院の二宮利治教授、本田貴紀助教、および神戸大学大学院医学研究科の平田健一教授らの共同研究グループによるもの。

 血清エライジン酸濃度は、神戸大学質量分析センターの篠原正和准教授により「ガスクロマトグラフィー質量分析法」を用いて測定した。

 この検査法は、多成分の化合物を気化させて分離し、分離させたそれぞれの成分がどのくらいの量(質量)、試料に含まれているかを検出するというもの。極微量な試料の定量に優れている。
トランス脂肪酸が増えると認知症リスクが1.6倍に上昇
 その結果、血清エライジン酸濃度の上昇にともない、全認知症、アルツハイマー型認知症の発症リスクはいずれも有意に上昇することが判明した。

 血清のトランス脂肪酸濃度が上昇すると、全認知症およびアルツハイマー型認知症の発症リスクは、ともに最大で1.6倍に上昇した。

 研究成果は、トランス脂肪酸を定量的に測定して認知症の関連を調べた初めての報告であり、過剰なトランス脂肪酸が認知症の発症に寄与する可能性を示す重要な知見だ。

 「トランス脂肪酸をトランス脂肪酸を避けた方が良いことを示したエビデンスが増えた。今後は、トランス脂肪酸が認知症発症と関与するメカニズムの解明が必要となる」と、研究者は述べている。
久山町研究(九州大学大学院 医学研究院)
Serum elaidic acid concentration and risk of dementia: The Hisayama Study(Neurology 2019年11月26日)