肥満と糖尿病のリンクを解明 炎症を引き起こすタンパク質を発見

 脂肪細胞で起こる炎症は2型糖尿病などの原因になる。大阪大学の石井優教授らの研究チームが、肥満が引き起こす「慢性炎症」の引き金となるタンパク質を発見した。糖尿病や高血圧から起こる動脈硬化を抑える新たな治療法の開発につながる成果としている。
「肥満と糖尿病のリンク」を断ち切る治療の開発へ
 肥満になると、体重が増えるだけでなく、脂肪組織にも影響があらわれる。慢性的な炎症が起こり、糖尿病や高血圧、動脈硬化などを引き起こすことが知られている。しかし、脂肪細胞で「慢性炎症」が起こる具体的なメカニズムはよく分かっていなかった。

 研究チームは今回の研究で、生体内の組織を生きたまま可視化して、細胞をリアルタイムで解析する「バイオイメージング」の技術を応用した。実験マウスに高脂肪・高カロリーの食事を与えると、8週で肥満になり、やがて2型糖尿病になった。

 高カロリーの食事を数週間連続して摂取し続けると、外見的に肥満になり脂肪細胞が肥大化する。バイオイメージングで観察すると、肥満になるずっと前から、通常は異物に対抗する働きをするマクロファージが脂肪組織内で活性化していることを、研究チームはマウスを使った実験で突き止めた。高カロリーの食事を摂取してわずか5日後に、炎症性マクロファージの働きは活発になるという。

 さらに解析を進めると、この時期には脂肪細胞は見た目には変化しないが、形質が変わりはじめ、マクロファージを全身から呼び寄せ炎症を増加させる「S100A8」というタンパク質を放出するようになることが判明した。

 研究チームは、このS100A8を抑えることで、マクロファージの遊走を抑え、肥満に伴う慢性炎症の進行を抑制することに成功した。S100A8の働きを抑える物質を週に2回マウスに注射すると、血糖を下げるインスリンの効果が高まったという。S100A8はヒトにもあり、同様の効果を期待できるという。

 肥満に伴う脂肪の慢性炎症の、最初期の過程を捉えることに成功し、その引き金となる「S100A8」を同定したことは、新しい画期的な治療法の開発につながる成果だ。

 「肥満と生活習慣病のリンク」を断ち切れば、「ある程度太っても健康」な状態を保つことができるようなる。慢性炎症に伴う糖尿病や高血圧などの発症を根元から食い止められる治療法を開発できる可能性があるという。

 この研究は、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの石井優教授、大阪大学医学系研究科の前田法一助教らの研究グループによるもので、「米国科学アカデミー紀要」オンライン版に発表された。

大阪大学免疫学フロンティア研究センター
Visualized macrophage dynamics and significance of S100A8 in obese fat(Proceedings of the National Academy of Science of the USA 2015年3月16日)