腸内細菌が不飽和脂肪酸の代謝をコントロール 高脂肪食による肥満を防ぐ働き
2019年09月11日
腸内細菌が、食事に含まれる多価不飽和脂肪酸の代謝をコントロールし、炎症を抑える有用な働きをする脂肪酸をつくるなど、高脂肪食による肥満を防いでいる働きをしていることが、東京農工大学などの研究で明らかになった。
腸内細菌は代謝に大きく関わっている
最近の研究で、腸内細菌が代謝に大きく関わっており、腸内細菌を健康に保つ食事が重要であることが分かってきた。東京農工大学などの研究グループは、腸内細菌が代謝により、多価不飽和脂肪酸を体に有用な働きをする脂肪酸に変換することを解明した。
近年の欧米食の普及にともない、食用油として用いられる植物性脂肪の大豆油や菜種油に多く含まれるリノール酸などn-6系多価不飽和脂肪酸の摂取量は増加する一方で、えごま油やシソ油などに多く含まれるαリノレン酸などn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量は減少している。
また、n-6系とn-3系の脂肪酸のバランスが破綻すると、肥満やメタボなどの代謝性疾患の発症率が上昇することも明らかになっている。
とくに、欧米食のような高脂肪食は、代謝性疾患の危険因子であると同時に、ヒトと共生関係にある腸内細菌叢の構成も変化させてしまう可能性がある。
EPAやDHAなどのn-3系多価不飽和脂肪酸に、炎症を抑えるなどの働きがあることが知られているが、その作用機序は十分には分かっていない。最近の研究で、n-3系やn-6系の多価不飽和脂肪酸から腸内細菌が代謝してつくられる産物が影響していることが分かってきた。
そこで、東京農工大学などの研究グループは、通常食を与えたマウスと高脂肪食を与えたマウスを比べて、腸内細菌叢を解析し、多価不飽和脂肪酸が腸内細菌にどのような影響をもらたすかを調べた。
腸内細菌が炎症を抑える脂肪酸をつくる
その結果、高脂肪食を摂取したマウスの盲腸では、乳酸菌が顕著に減少していることが分かった。「HYA」を含む数種の腸内細菌代謝脂肪酸が劇的に減少していた。
HYAは、乳酸菌の代謝を利用して生産される機能性脂肪酸。HYAはリノール酸から乳酸菌の酵素反応でつくられ、腸管の炎症を抑える作用などがあることが報告されている。
また、n-6系多価不飽和脂肪酸であるリノール酸を高脂肪食に加えて与えたマウスでは、リノール酸から産出されるアラキドン酸を餌として、生体内で炎症性の代謝物が増えていた。この代謝物が脂肪組織の炎症を抑えると考えられる。
さらに、腸内でのHYA濃度を通常食摂取時と同程度になるように高脂肪食中にHYAを補充したマウスは、肥満による耐糖能異常に対して、腸管ホルモンのGLP-1の分泌が亢進していた。GLP-1には、血糖を下げるインスリンの分泌を促進したり、摂食を調節し食べ過ぎを抑える働きがある。
HYA産生能を有する乳酸菌を定着させたマウスでも、同様の代謝機能の改善がみられた。HYAについては、血糖値を改善する作用や、脂肪の合成を抑制する作用なども報告されており、乳酸菌によるHYAの産生を促すことで肥満が抑制されると考えられる。
腸内環境をコントロールすることで恒常性を維持
腸内細菌についての研究は進んでおり、最近の研究では、腸内環境をコントロールすることで、生体の恒常性を維持できることが分かってきた。
今回の研究は、食と腸内環境の相互連関が、エネルギー代謝を健康に維持するために必要であることを示している。腸内細菌が食事中に含まれる多価不飽和脂肪酸を代謝することで、肥満を改善できる可能性が示された。
食の欧米化によるn-6系とn-3系の脂肪酸バランスが破綻すると、肥満やメタボなどの代謝性疾患を発症しやすくなる。腸内細菌が食事中の多価不飽和脂肪酸を代謝することで、肥満を抑制する働きをしていると考えられている。
近年の食の欧米化にともなう肥満の増加は社会的な問題となっており、腸内環境をコントロールする食事スタイルや、腸内細菌の代謝産物が、代謝性疾患に対する新たな治療法につながると期待される。
研究は、東京農工大学大学院農学研究院の宮本潤基特任助教、同大大学院農学研究院・グローバルイノベーション研究院の木村郁夫教授らの研究グループによるもの。
東京農工大学大学院農学研究院応用生命化学部門Gut microbiota confers host resistance to obesity by metabolizing dietary polyunsaturated fatty acids(Nature Communications 2019年9月5日)
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