リレーコラム「教えて!肥満症」
第10回 健診結果の見方を「もぐらたたき」から「だるま落とし」へ ―健康診断結果をいかして肥満症を予防しよう―
野口 緑
日本肥満症予防協会 執行理事
大阪大学大学院医学系研究科 保健学専攻 特任准教授
健康診断の結果表、どこを見ていますか?
健康診断の結果が届いたとき、「A異常なし」や「C要精密検査」といった総合判定を確認するだけで結果表を閉じてしまうことが多いですが、皆さんはいかがでしょうか。また、検査項目ごとの結果を確認する人も、「血圧が少し高い」「血糖値は正常だった」と、一つひとつの項目に目が向きがちです。
肥満症を防ぐためには、こうした見方だけでなく、少しだけ基準範囲を超えている検査項目も含めて、複数の検査結果を総合的に見ることが重要です
健康診断の結果は、「現在、病気があるかどうか」を確認するだけでなく、将来、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などの病気を起こすリスクがあるかどうかを確認し、予防のきっかけにするにするための、いわば、「健康予報」でもあります。今回は、健診結果をうまく活用するコツについて、説明します。
健診結果から、血管の変化を読み取る
肥満症の健康障害には、睡眠時無呼吸症候群や運動器疾患なども含まれますが、多くは、耐糖能障害、高血圧、高尿酸血症などの生活習慣病、心筋梗塞などの冠動脈疾患や脳梗塞といった生活習慣病の重症化した状態が含まれます。
糖尿病予備群である耐糖能障害や高血症予備群であっても、放置することで血管障害が進み、重症化する恐れがあるため、健康障害に含めてより早期から介入する対象になっています。
しかし、こうした健康障害に該当していても、従来の健康診断の結果判定では、多くの場合「B:経過観察」や「C:要指導」レベルで、「D:要医療」には該当しません。また、血糖値や血圧、中性脂肪やHDLコレステロールなど、いくつかの項目でB判定レベルのわずかな異常が重なっていても、動脈硬化が進むことが知られています。
そこで、健康診断の結果を活用し、判定に頼るのではなく、数値を確認することが大切です。その際のポイントとして、健康診断の項目を大きく三つの段階に分けて考えると、動脈硬化のリスクが見えやすくなります。
1段階目は、BMI、腹囲、中性脂肪値、HDLコレステロール値、肝機能検査の結果です。これらの項目は、内臓脂肪の蓄積や、それに伴う代謝異常の有無を知る手がかりになります。見た目や体重だけでは内臓脂肪の量はわかりにくいため、腹囲や複数の検査値を組み合わせて見ることが大切になります。
2段階目は、血圧値や血糖値、尿酸値、LDLコレステロール値です。高い血圧や尿酸、過剰な血糖やLDLコレステロールにさらされる状態が続くと、血管の内側、内皮細胞が傷つき、動脈硬化が進みやすくなります。
さらに3段階目は、尿たんぱく、クレアチニン、eGFRなどの腎機能検査や、心電図、眼底検査などの変化です。これらは、血管の障害が腎臓、心臓、脳といった臓器の細動脈に及び始めた可能性を示すサインになります。
もちろん、基準値を一度超えただけで、すぐに血管障害の存在や病気の発症と決まるわけではありません。しかし、「少し高いだけ」と放置していると、知らない間に血管障害が進んでしまうということになりかねません。
ここで示した値が基準値を上回っているかどうか、一度チェックしてみてください。基準を超えている有所見の数がこれまでよりも増えていないか、また、正常範囲内でも数値が上昇していないかを確認しましょう。
異常項目ごとに対処する「もぐらたたき」から、原因を振り返る「だるま落とし」へ
これまでの生活習慣病対策では、血圧が高ければ塩分を控える、血糖が高ければ甘いものを減らす、中性脂肪が高ければお酒や油ものの取りすぎを見直すというように、注意が必要な項目ごとに対策を考えるのが一般的でした。
塩分制限や食事内容の見直しなど、それぞれの数値に応じた対策は必要ですが、肥満に伴う高血圧や高血糖などは、内臓脂肪の肥大化に伴って脂肪細胞から分泌される生理活性物質によって生じていると考えられるため、それぞれバラバラに対策を打つことはあまり効率的ではありません。
血圧、血糖だけでなく、中性脂肪や尿酸と次々に重なってくる有所見項目に対して別々の対策を増やしていくやり方は、まるで、次々に出てくるもぐらをたたく「もぐらたたき」のようです。取り組むことが増え過ぎてしまい、健康行動を続けるのも難しくなりがちです。
肥満症の場合は「だるま落とし」が有効です。つまり、一つ下の段階に注目し、原因となっている要因を取り除くという考え方です。
肥満症では、複数の異常の背景にあるのが「内臓脂肪の過剰」です。インスリンが効きにくい、血圧が上がりやすい、脂肪肝によって肝機能検査があがっている、などの所見は、内臓脂肪の溜まりすぎが原因で分泌される生理活性物質の影響を受けているため、脂肪を減らしてやることで結果値の改善が見込めるわけです。
まるで、だるま落としの一番下の段を抜くように、内臓脂肪に働きかけることで、複数の検査値が一緒に改善する可能性があります。これが「だるま落とし」の考え方です(図)。
血圧や血糖などの有所見項目を改善するためには、現在の体重の3%程度の減量が目標です。次に、ズボンやスカートのベルトがきつくなるなど、体重が増えだしたのはいつ頃からか、振り返ってみてください。そして、その頃と比べて、食べる量や時間、間食や飲酒、身体活動量など、生活の変化を振り返ってみましょう。
例えば、昼食が弁当から定食屋に変わった、車利用が増えた、デスクワークが長くなったなど、少しの生活変化が内臓脂肪を増やした可能性があります。
肥満症は、単に体重が多い状態を指すのではなく、放置することで将来、重大な健康障害を起こすリスクが高い状態です。総合判定を頼りにせずに、予備群の段階から対策を始めていきましょう。
出 典
野口緑:健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと. 日経BP, 2023.
(2026年09月)








