リレーコラム「教えて!肥満症」
第9回 肥満症対策と食事療法
2026年08月28日
中村 丁次
日本肥満症予防協会 執行理事
神奈川県立保健福祉大学 名誉学長
食事療法の目的は内臓脂肪の減少による健康障害の予防・改善
日本肥満学会は『肥満症診療ガイドライン2022』で、科学的エビデンスを基に7つの治療目標を設定しています(表)。
表 7つの治療目標
- 減量は肥満症治療の目的ではなく、手段である
- 治療目的は、肥満に起因・関連する健康障害の予防・改善である
- 健康障害の予防・改善には内臓脂肪の減少が有効である
- 減量目標の達成、リバウンドの防止のためには患者のパーソナリティを把握し、生活習慣の改善に向けた行動変容を促す行動療法が有効である
- 減量目標は3~6カ月で現体重の3%減
- 高度肥満症の減量目標は、合併疾患により異なる
- スティグマを排除する
肥満症の治療はこの目標に沿って、以下の方法で食事療法を進めます。
- 治療の基本は食事療法であり、内臓脂肪の減少により健康障害の改善がみられる
- 摂取エネルギーの減少が有効
- 肥満症では1日のエネルギー算定基準は25kcal×目標体重(kg)以下
- 高度肥満症では1日のエネルギー算定基準は20~25kcal×目標体重(kg)以下であり、減量が得られない場合は超低エネルギー食(VLCD、600kcal以下)を選択する
- 摂取エネルギーの内容は炭水化物50~65%、タンパク質13~20%、脂質20~30%とする
- 必須アミノ酸を含むタンパク質、ビタミン、ミネラルを十分摂取する
- フォーミュラ食を1日1食だけ食事と交換することで有効な肥満関連病態の改善が期待できる
- リバウンドを伴わない継続した減量がもっとも有効である
- 全飢餓療法は危険である
- 個別化した栄養指導が有効である
つまり、肥満症の食事療法の原則は、生体のエネルギー消費量より摂取エネルギー量を少なくして、生体内にエネルギー不足状態を作り、体脂肪の分解を促進させて代謝異常を改善することにあります。
この場合、摂取エネルギーの制限が必要になり、エネルギー産生栄養素のうち、どれを制限するかが課題になります。長期にわたり確実に減量できること、リバウンドを起さないこと、代謝異常が改善されること、全ての栄養素の必要量が確保されることを総合的に考慮して、個別に決定することが必要になります。
食事療法に個別化が必要とされる一方、全てに共通する考え方もあります。炭水化物の中でも糖質は消化吸収性エネルギーとなり、インスリン分泌を刺激することから、制限する対象になります。しかし、同じ炭水化物でも食物繊維は腸内細菌を介して短鎖脂肪酸になり、インスリン分泌の刺激性が低いため、積極的に摂取します。脂質は、高エネルギー成分なので全体がエネルギー過剰にならない程度に、植物油や魚油を中心に摂取します。タンパク質は、必須アミノ酸の確保と各種機能性タンパク質の生成に必要なので、体重当たり1g以上を確実に摂取します。摂取量としては、1日に卵1個、魚1切れ、肉80~100g、豆腐半丁を目安にします。その他、各種ビタミン、ミネラルを摂取するために毎食、野菜、海藻、キノコ類、豆類をとり、1日に果物1切れと牛乳コップ1杯を摂取します。
女性の低体重/低栄養症候群(FUS)
2025年4月、日本肥満学会はワーキンググループを立ち上げ、新たな疾患概念として「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)」を提起し、ステートメントを公開しました。
FUSとは18歳以上~閉経前の成人女性を対象に「低体重または低栄養の状態を背景として、それを原因とした疾患・症状・徴候を合併している状態」と定義されています。FUSに含まれる、主な疾患や状態は、①低栄養・体組成の異常〔BMI<18.5kg/m2、低筋肉量・筋力低下、栄養素不足(ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど)、貧血(鉄欠乏性貧血など)〕、②性ホルモンの異常〔月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)〕、③骨代謝の異常〔低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)〕などが挙げられています。
FUSの原因には、マスメディアやSNSなどを通じて「やせ=美」という価値観が浸透していること、さらには社会問題となっている、糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用、いわゆる「GLP-1ダイエット」の助長があげられます。過度なやせ志向と過激なダイエットを是正し、正しい食事療法を教育していく必要があります。
最適な食事療法の創造
ところで、肥満症の発症や食事療法には、遺伝的、環境的、生理的、心理社会的要因など、さまざまな要因が複雑に関与します。ある特定の栄養素や食品を減少すれば大丈夫というわけではありません。食事療法の内容も、合併した代謝異常が脂質系なのか、糖質系なのかで異なり、ビタミンやミネラルの過不足状態によっても、食事療法の内容が異なってきます。
例えば、肥満症で脂質異常がある人はできる限り脂質の摂取量を下限値に近く、糖質異常の人は糖質の下限値に近い値を選択します。
つまり、肥満症の食事療法は、原因となった過食によるネルギー過剰摂取の食習慣を改善することが原則で、その中身は個人の病態と栄養状態、さらに嗜好、環境、生活習慣等を考慮して、自分自身にとって最適な食事療法を創造することが重要になります。そのためには、医師と管理栄養士に相談することをおすすめします。
(2026年08月)








